個人事業主やフリーランスの方の中には確定申告に苦手意識を持っている方もいるかもしれません。
会計帳簿を作成するのが得意ではなく、何を経費にしてよいのかよくわからないという声も耳にします。
特に仕事とプライベートに使用しているものについてどうやって経費にすればいいのか判断に迷うところも多いかもしれません。
今回は仕事でもプライベートでも使用するものに関する経費、「家事按分」について解説します。
この記事を読んで確定申告がスムーズに進むようになれば喜ばしい限りです。
家事按分とは
事業でもプライベートでも使用している経費については、事業に使っている部分を必要経費に算入することができます。これを家事按分といいます。
例えば、自宅兼事務所であったり、携帯電話の利用料、電気料金、自動車のガソリン代や駐車場代など、様々なものが事業でもプライベートでも使われています。
家事按分をするためには「業務遂行上必要」であり「必要部分を合理的に按分」することが求められています。
事業でもプライベートでも使っているからといって無条件に必要経費に算入できるわけではないことに注意しましょう。
業務遂行上必要
家事按分をするためにはその経費が業務の遂行上必要でなければいけません。
必要かどうかの判断はその事業ごとに実態で判断します。
たとえば雑誌を例に考えてみましょう。飲食店やサービス業がお客様用に購入した雑誌は業務上必要といえますが、自分だけが読むために購入した雑誌は業務上必要とはいえません。
経費にならないもの
スーツやコンタクトレンズ、化粧品などは必要経費に算入することはできません。
仕事の際にスーツやコンタクトレンズは必要かもしれませんが、税務上は生活費と考えるため業務遂行上必要という取り扱いはしません。
当然ですが、家事按分で経費に算入することもできません。
合理的な割合で按分
合理的な割合で按分ができなければ経費算入ができません。しかしどのように按分するかについては明確な基準はありません。
個々の実態により判断することになります。
判断基準としては面積、時間、距離、日数などで按分することが一般的です。もちろん合理的であればこれらの基準でなくても問題ありません。
家事按分の具体例
家事按分の具体例をご紹介します。
あくまでも一例なので必ずしもこの方法で按分しなければいけないということではないのでご注意ください。
自宅兼事務所 | 面積 |
電気代 | 時間、コンセントの数 |
ガソリン代 | 距離 |
減価償却費 | 面積、距離、時間 |
【自宅兼事務所】部屋が複数ある場合の按分
自宅兼事務所の場合は事務所として使用している部屋もあれば、リビングや寝室といったプライベートでしか使っていない部屋もあります。
ここで注意が必要なのはトイレや廊下といった仕事でもプライベートでも共用で使っているスペースについてです。
この共用部分も按分が必要となります。
計算例
前提条件:家賃8万円
事務所用スペース | 10㎡ |
プライベートスペース(リビング、浴室、寝室等) | 30㎡ |
共用スペース(トイレ、廊下など) | 5㎡ |
合計 | 45㎡ |
- 事務所用スペースとプライベートスペースの合計を算出
10+30=40 - ➊で算出した合計額を基に共有スペースを按分
5×10÷40=1.25 - 事業共用割合を算出
(10+1.25)÷45=25% - 経費に算入する金額を算出
80,000×25%=20,000
持ち家の場合は住宅ローン控除に注意
持ち家を自宅兼事務所として使用している場合は、建物についての減価償却費に事業共用割合を乗じた金額が必要経費に算入されます。
ここで注意していただきたいのは、住宅ローン控除を受けている持ち家を事務所として利用しているケースです。
住宅ローン控除は住宅部分のみが対象となるため事業用として使用している部分は控除の対象外です。ただし事業共用割合が10%以下の場合は、その建物の全てが住宅用として使用しているとみなされ住宅ローン控除の全額が適用されます。
また、床面積の2分の1以上を居住用として使用していない場合は住宅ローン控除を受けることができません。住宅の大部分を事業としている場合には住宅ローン控除を受けられなくなるため注意が必要です。
減価償却費を多くとるために事務所スペースを大きくとると住宅ローン控除の金額が減り、かえって税負担が増えることもあるため気を付けましょう。
リビングの一角やワンルームマンションでは必要経費算入が難しいことも
自宅兼事務所であっても必要経費算入が難しい場合があります。
リビングの一角で仕事をしている場合やワンルームマンションを事務所としている場合です。
なぜこの場合に経費算入が難しいかというと、合理的な区分ができないからです。
事務所用に1部屋を使っている場合は面積を基に按分することができます。それに対してリビングの一角やワンルームマンションはそのような按分ができません。
もし、リビングの一角やワンルームマンションで事業を行うのであればパーテーションなどで区切ったうえで、事業専用のスペースとして使用すれば、家事按分による必要経費算入の余地はあるでしょう。
電気代など時間や日数で按分する場合
電気代などは時間で按分するのが合理的といえるでしょう。
例えば事務所として使っているのが週に5日、9時から17時までの8時間の場合で電気代が7千円だったとします。
その場合に必要経費に算入する金額は次の通りです。
5÷7×8÷24=23.8%
7,000×23.8%=1,666円
このように日数と時間を合わせて按分することが合理的といえる場合もあります。
自動車の経費は距離で按分が合理的
ガソリン代や車検の費用など自動車に関する費用を家事按分する際には距離を基に按分するのが合理的でしょう。
そのためには走行記録をつけて、事業用としてどのくらいの距離を走ったのかを管理しておくことをおススメします。
減価償却費を按分する際の注意点
減価償却費について注意していただきたいことは取得価額を按分するわけではないということです。減価償却費を按分します。
例えば取得価額200万円、耐用年数10年、事業共用割合70%の場合に経費に算入する金額は次の通りです。
- 減価償却費全体を計算
200万円÷10=20万円 - 計算した減価償却費を家事按分し必要経費を計算
20万円×70%=14万円となります。
事業共用割合については固定資産ごとに定めることができます。
例えば自動車であれば距離であったり、パソコンであれば時間であったり、その資産に適した割合を算出しましょう。
会計帳簿の処理
家事按分についての会計処理について解説します。
経費に算入されなかった部分については事業主貸で処理します。
例えば通信費1万円を支払い、経費に算入する割合が30%の3千円だったとします。その場合の仕訳は次のようになります。
通信費 (消費税10%) 3,000 | 現金預金 10,000 |
事業主貸 (消費税対象外) 7,000 |
経費に算入されない部分は事業主貸勘定で処理します。消費税については対象外となり、消費税の納税額への影響はありません。
まとめ
家事按分を行う上で最も重要なのはその割合です。割合の根拠を説明できるように資料を残しておきましょう。
「感覚的にこの位使っているからこの位の割合」だと合理的とはいえません。明確な基準がないからこそ、納税者が用いた割合の根拠をしっかり残しましょう。
合理的とはいえない割合を用いた結果、税務調査で否認されてしまうというケースは少なくありません。割合の計算は第三者に説明できるような確実なものを用いましょう。
忘れてはいけないポイントは「業務遂行上必要」であり「必要部分を合理的に按分」することです。