「インボイス登録をしている事業者が亡くなった場合のインボイスの手続きはどうすればいいのだろうか?」

しっかり事業承継が終わっていればそのような不安も無いかもしれません。

しかし、相続は思わぬタイミングでやってくることもあります。

相続があってただでさえあわただしい中、相続人が事業を引き継ぐかどうかをの判断を迫られます。

今回はインボイス登録をした事業者が亡くなった場合のインボイスに関する手続きについて解説します。

事業承継しない場合

事業承継をしない場合の必要な手続きについて解説します。

どのようなケースであっても「個人事業者の死亡届出書」が必要です。

この届出書は明確な提出期限を設けられておらず速やかに提出することを求められています。

提出先は亡くなった方の納税地を所轄する税務署です。通常は住所が納税地となります。

亡くなった日が令和5年10月1日以後の場合は「個人事業者の死亡届出書」に加えて「適格請求書発行事業者の死亡届出書」の提出が必要です。

事業者が亡くなっただけではインボイス登録の効力は失われておらず、適格請求書発行事業者の死亡届出書の提出があった日の翌日または死亡した日の翌日から4月を経過した日のいずれか早い日にインボイス登録の効力が失われます。

事業承継をしない場合は届け出を提出するだけなのでそれほど難しいことはないのではないでしょうか。

事業承継する場合(相続人がインボイス登録済み)

インボイス登録をしている相続人が事業承継をする場合の手続きは事業承継をしない場合と同じです。

「個人事業者の死亡届出書」は必ず提出し、亡くなった日が令和5年10月1日以後の場合は「適格請求書発行事業者の死亡届出書」の提出が必要です。

相続人がインボイスの登録をしている場合は、相続人の登録番号を使って事業を行うことができます。

事業を引き継いだからといって亡くなった人の事業と相続人の事業を分けて考える必要はありません。すべて相続人の事業となります。

事業承継する場合(相続人がインボイス登録していない場合)

事業を引き継ぐ相続人がインボイスの登録をしていない場合は少し複雑です。

事業を行う相続人がインボイスの登録を行っていないため、登録番号をどうするかという問題があります。

亡くなった日が令和5年10月1日より前か後かで取り扱いが変わることに注意しましょう。

令和5年10月1日より前の相続

令和5年10月1日より前に亡くなった場合は亡くなった方のインボイス登録は効力を生じません。

そのため事業を承継する相続人がインボイスの登録を受けなければいけません。

令和5年10月1日よりインボイスの登録を受けるためには原則として令和5年3月31日までに登録をしなければいけません。

ただし、令和5年3月31日まで登録申請書を提出できなかったことにつき困難な事情がある場合は、令和5年9月30日までに登録申請書にその旨を記載して提出すれば、令和5年10月1日に登録を受けたこととみなされる措置があります。

相続による事業承継は困難な事情に該当しますので令和5年9月30日までに登録申請書を提出すれば令和5年10月1日からインボイスの登録を受けることができます。

なお、「個人事業者の死亡届出書」の提出は必要となりますので忘れないようにしましょう。

令和5年10月1日以後の相続

令和5年10月1日以後に亡くなった場合は承継した事業についてインボイス番号が必要になります。

相続があった場合には、相続人をインボイス登録事業者とみなす措置があります。

インボイス登録事業者が亡くなった場合において、相続人が事業を引き継いだ日の翌日から、その相続人がインボイス登録されるまでの間またはその亡くなった方の死亡日の翌日から4月を経過する日のいずれか早い日までの期間は亡くなった方のインボイス登録番号をその相続人の番号とみなすことができます。

そのため相続人は亡くなった方のインボイス番号を発行することができます。

もちろん相続人自身のインボイス登録も必要となりますので事業を相続すると決めて場合はなるべく早くにインボイス登録をすることをおススメします。

ご自身でインボイス登録をする場合であっても、亡くなった方に関する届け出は必要です。「個人事業者の死亡届出書」と「適格請求書発行事業者の死亡届出書」の提出が求められます。

図解:届け出のまとめ

令和5年10月1日より前の相続

個人事業者の
死亡届
相続人自身の
インボイス登録
事業承継をしない必要不要
事業承継をする
(相続人がインボイス登録済み)
必要不要
事業承継をする
(相続人がインボイス登録していない)
必要必要

令和5年10月1日以後の相続

個人事業者の
死亡届
適格請求書発行
事業者の死亡届出書
相続人自身の
インボイス登録
事業承継をしない必要必要不要
事業承継をする
(相続人がインボイス登録済み)
必要必要不要
事業承継をする
(相続人がインボイス登録していない)
必要必要必要

承継の判断は4か月以内に

事業承継をするかどうかの判断は亡くなった日から4月以内にしましょう。

4月を超えてしまうとインボイスが発行できない取引が生ずるかもしれません。

インボイスが発行できない場合において、負担が増えるのは取引先です。仕入税額控除ができなくなり消費税の納税額が増えることが予想されます。

【参考】相続があった場合の納税義務の特例

相続があった場合の納税義務の判定方法をご紹介します。

納税義務の判定は通常の場合は2年前の課税売上高で判断します。2年前の課税売上高が1,000万円を超える場合は課税事業者となります。

相続があった場合の納税義務の判定は相続があった年と相続が前年または前々年にあった年で方法が変わります。

相続があった年の納税義務の判定

相続があった年の納税義務の判定は次のいずれかが1,000万円を超えるかで判定します。

①相続人の2年前の課税売上高
②亡くなった方の2年前の課税売上高


どちらの判定基準も相続人または被相続人の単独の課税売上高を用いて判定します。後ほど説明しますが、前年または前々年に相続があった場合のように合算しての計算はしません。

そのため、相続があった年における納税義務の判定はそれほど難しくありません。

相続人がもともと課税事業者なら当然に課税事業者です。

免税事業者である相続人が事業を引き継いだ場合は、亡くなった方が課税事業者なら課税事業者になりますし、亡くなった方が免税事業者なら免税事業者です。

免税事業者である相続人が課税事業者である亡くなった方の事業を承継した場合は、相続があった日の翌日からその年の12月31日までの間は課税事業者になります。

前年または前々年に相続があった場合の納税義務の判定

前年または前々年に相続があった年の納税義務の判定は次のいずれかが1,000万円を超えるかで判定します。

①相続人の2年前の課税売上高
②相続人と亡くなった方の2年前の課税売上高の合計

相続があった年の判定と異なり相続人と亡くなった方の課税売上高合計で判定します。

相続人または亡くなった方単独で判定すると課税売上高が1,000円以下であっても合計して1,000万円を超えると課税事業者になるので間違えないように注意しましょう。

まとめ

インボイス登録事業者が亡くなった場合の手続きでまず考えることは事業承継をするかどうかということです。

4か月以内にその判断をしましょう。それを超えるとインボイスを発行できない期間が生ずることがあります。

インボイス登録をしていない相続人が事業を承継する場合はなるべく早くインボイス登録をするべきです。登録が遅れインボイスが発行できないという事態になれば取引先が仕入税額控除ができなくなり、税負担が増えます。

インボイスという切り口で相続、事業承継を語るとインボイス登録のことだけに焦点が向かいますが、本来であればインボイスをどうするかは事業承継の本質部分ではありません。

事業を渡す側も受ける側もしっかりとした伴走期間を設けて承継することをおススメします。