この記事の執筆者
税理士 青木征爾
札幌市を中心に活動
新規創業支援や中小企業の経営支援、相続業務を得意とする
こんにちは。札幌市豊平区の税理士、青木です。
フリーランスなどの個人事業者は取引先の倒産により経営が悪化するというケースは少なくありません。
そのような事態に対して経営セーフティ共済(倒産防止共済)で備えてみてはいかがでしょうか?
取引先の倒産等があった場合に資金の借入を行うことができ万が一の時に安心です。
しかも、節税になる場合もあるため一石二鳥の制度と言えます。
この記事ではフリーランスなどの個人事業者が経営セーフティ共済に加入する場合の注意点について解説します。
注意:この記事は主にフリーランスなどの個人事業者を対象としています。法人には該当しない点もあるのでご留意ください。
経営セーフティ共済とは
経営セーフティ共済とは取引先の事業者が倒産した際に中小企業や個人事業主が連鎖倒産や経営難に陥ることを防ぐための共済制度です。
毎月掛け金を納めることで取引先の倒産などがあった場合に借入を受けることができるものとなっています。
中小企業倒産防止共済制度とも呼ぶこともあり、独立行政法人中小企業基盤整備機構が運営をしています。
万が一の場合のセーフティーネットとしての役割はもちろんですが節税目的で加入する場合もあります。
経営セーフティネットのメリットは様々なものがあります。確認してみましょう。
経営セーフティ共済のメリット①節税
経営セーフティ共済の掛け金は必要経費に算入することができます。
経費となるため所得を圧縮することができ、節税効果が見込まれます。
会計帳簿の仕訳については次のようになります。
仕訳例 損害保険料 XXX/ 普通預金 XXX
※上記の仕訳は個人事業主の場合です。法人の場合は保険積立金として資産計上することもできますので注意しましょう。
経営セーフティ共済のメリット②解約手当金
経営セーフティ共済に加入したけれど取引先の倒産が無かった場合等で共済契約を解約した場合は解約手当金が受け取れます。
解約理由が自己都合であっても掛金を12が決以上納めていれば契約手当金が受け取れます。なお、40か月以上納めている場合は掛金の全額を受け取ることができます。
ただし、契約手当金は所得税(法人の場合は法人税)の課税対象となる点に注意しましょう。
経営セーフティ共済のメリット③一時貸付金
取引先事業者が倒産していなくても一時貸付金といって借入をすることができます。
借入額は30万円以上で5万円単位となっており、返済期間は1年で期限一括償還で返済しなければいけません。担保、保証人は不要という点も特徴です。
借入の限度額は掛金納付月数に応じて次のようになっています。
(既に借入をしている共済金や一時貸付金がある場合は控除します)
掛金納付月数 | 一時金の借入限度額 |
1か月から11か月 | 0円 |
12か月から23か月 | 掛金総額×75%×95% |
24か月から29か月 | 掛金総額×80%×95% |
30か月から35か月 | 掛金総額×85%×95% |
36か月から39か月 | 掛金総額×90%×95% |
40か月以上 | 掛金総額×95%×95% |
掛金総額が800万円の場合 | 800万円×95%(760万円) |
節税には出口戦略が必要
経営セーフティ共済は掛金が経費となり解約手当金が課税の対象ということは先ほどご説明しました。
経営セーフティ共済は掛金が経費となりますが、解約手当金のことまで考慮に入れないと節税にはなりません。
節税になるかを知る前に所得税の性質を学びましょう。
所得税は超過累進税率といって所得が大きくなればなるほど税率が大きくなります。
所得が大きいほど節税効果は大きく、また所得が大きい時に利益が発生すると税負担が大きくなるという特徴があります。
課税所得金額 | 税率 | 控除額 |
195万円以下 | 5% | 0円 |
195万円超 330万円以下 | 10% | 97,500円 |
330万円超 695万円以下 | 20% | 427,500円 |
695万円超 900万円以下 | 23% | 636,000円 |
900万円超 1,800万円以下 | 33% | 1,536,000円 |
1,800万円超 4,000万円以下 | 40% | 2,796,000円 |
4,000万円超 | 45% | 4,796,000円 |
節税になるパターン
節税になるパターンは掛金を支払う際に税率が高く、解約手当金を取得する際に税率が低い場合です。
前提
掛金:月10万円 年間120万円
掛金納付月数:48か月
掛金払い込み時の所得:600万円(掛金を経費に算入する前)
解約時の所得:ー380万円(解約手当金を算入する前)
※掛金払い込み時の所得は毎年変化がないものとします。
このようなケースの場合の節税効果は120×20%=24万円、24万円×4年=96万円となります。
(所得600万円ー年間掛金120万円=480万円の税率=20%)
赤字の際に解約をしたため、解約手当金480万円を加味した所得が100万円となり、その場合の所得税は100万円×5%=5万円
解約手当金を加味する前は赤字のため所得税が0円。そのため解約手当金による税負担の増加は5万円です。
通算すると税負担に対する影響は96万-5万で91万円の節税効果となります。
節税にならないパターン
先ほどのパターンととは逆に、掛金支払時に税率が低く、解約手当金取得時に税率が高い場合は節税になりません。
前提
掛金:月10万円 年間120万円
掛金納付月数:48か月
掛金払い込み時の所得:320万円(掛金を経費に算入する前)
解約時の所得:1,000万円(解約手当金を算入する前)
※掛金払い込み時の所得は毎年変化がないものとします。
このようなケースの節税効果は120×10%=12万円、12万円×4年=48万円となります。
(所得320万円ー年間掛金120万円=200万円の税率=10%)
解約手当金を加味する前の所得が1,000万円だったとします。その場合の所得税は1,000万円×33%ー1,536,000=1,764,000
解約手当金480万円を加味すると所得が1,480万円となります。1,480万円の所得税は1,480万円×33%ー1,536,000円=3,348,000
解約手当金により3,348,000ー1,764,000=1,584,000円の税負担が増加しています。
掛金の節税効果48万円と合計すると110万4千円税負担が増えていることになります。
上記の例は極端かもしれませんが、解約手当金の出口を考えなけらば節税どころか逆に税負担がふえることもあります。
特にフリーランスなどの個人事業主は大きな費用は発生しにくいことが多いです。節税ではなく課税の繰り延べになる場合もあるので注意しましょう。
法人成りで退職金を
経営セーフティ共済の出口戦略として事業主への退職金がおすすめです。
退職金は経費になる金額が大きく、支給を受けた事業主にとっても税負担が少ないものとなっています。
しかし、個人事業主の場合は事業主へ退職金を支払っても経費にすることはできません。
そのため事業主に退職金を支払う場合は事業を法人化(法人成り)しなければいけません。
経営セーフティ共済は個人事業から法人事業へ共済契約を引き継ぐことができます。
法人成りと退職金について詳しくはこちらの記事をご覧ください。
加入要件
経営セーフティ共済に加入するには継続して1年以上事業を行っていることに加え、常時使用する従業員数の要件が求められます。また、法人にあっては資本金の要件も求められます。
これらの要件は業種によってそれぞれ定められています。
業種 | 常時使用する従業員数 | 資本金の額(法人のみ) |
製造業、建設業、運輸業その他の業種 | 300人以下 | 3億円以下 |
卸売業 | 100人以下 | 1億円以下 |
サービス業 | 100人以下 | 5,000万円以下 |
小売業 | 50人以下 | 5,000万円以下 |
ゴム製品製造業 | 900人以下 | 3億円以下 |
ソフトウェア業又は情報処理サービス業 | 300人以下 | 3億円以下 |
旅館業 | 200人以下 | 5,000万円以下 |
加入できない場合
上記の要件を満たしていても次のいずれかに該当する場合は加入することができません。
- 住所又は主たる事業の変更を繰り返し行ったため、継続的な取引状況の把握が困難な場合
- 事業にかかわる経理内容が不明の場合
- すでに借入を受けた共済金又は一時貸付金の返済を怠っている場合
- 中小機構から返済請求を受けた共済金又は一時貸付金の返済を怠っている場合
- 納付すべき所得税又は法人税を滞納している場合
- 12か月以上の掛金納付を怠ったため、又は偽りそのほか不正行為のため中小機構によって共済契約を解除された日から1年を経過していない場合
- 偽りそのほか不正の行為により共済金もしくは一時貸付金の借入、または早期償還手当金もしくは解約手当金の支給を受け、又は受けようとした日から1年を経過していない場合
- 現に共済契約者となっている場合
必要資料
フリーランスなどの個人事業主が経営セーフティ共済に加入する場合は次の資料が必要です。
- 所得税の確定申告書(決算書・収支内訳書などの添付資料を含む)
- 所得税の納税証明書
- 白色申告の場合は確定申告書を作成した際の帳簿等
- 契約申込書
加入窓口は商工会、銀行、信用金庫、信用組合等です。ただしゆうちょ銀行やネット銀行は取り扱っていないので注意しましょう。
経営セーフティ共済の注意点
40か月未満の積立では掛金の一部が戻らない
掛金の納付月数が40か月未満だと掛金の一部が戻らない場合があります。
支給率は解約の理由と掛金の納付月数によって変わります。
特に納付月数が12か月未満の場合は解約手当金が支給されない点に注意しましょう。
解約手当金は掛金以上にならない
納付した掛金以上に解約手当金が増えることはありません。
もし、資金を増やすことを目的としているのでしたら株式や投資信託のような金融商品の方が適しているかもしれません。
最も節税効果を出す方法
経営セーフティ共済は掛金が大きいほど節税効果が出やすいです。経営セーフティ共済の掛金は最大で月20万円です。
また、前納という掛金の先払いの制度もあり、前納期間が1年以内であるものについては必要経費に算入することができます。
前納については利益が多く出た年の有効な節税策のひとつです。
取引先が倒産した場合
経営セーフティ共済は取引先が倒産した場合に共済金の借入ができます。
この場合の「倒産」とは次のような場合です。
- 破産手続きの開始の申立て等の法的整理
- 手形交換所やでんさいネットに参加する金融機関によって取引停止処分を受けること
- 私的整理
- 災害による不渡り
- 災害によるでんさいの支払い不能
- 特定非常災害による支払い不能
これらに該当しない夜逃げなどについては倒産に該当しないので注意しましょう。
借入限度額
経営セーフティ共済による借入には限度額があります。回収が困難になった売掛金債権と掛金総額の10倍に相当する金額のいずれか少ない金額となります。
借入額は50万円から8,000万円で5万円単位となっています。
返済期間
返済期間は借入額に応じて決まっており、6か月の据置期間が設けられているため、7か月目から返済が始まります。
借入額 | 返済期間(6か月の据置期間を含む) |
5,000万円未満 | 5年 |
5,000万円以上6,500万円未満 | 6年 |
6,500万円以上8,000万円以下 | 7年 |
返済方法は6か月の据置期間終了後毎月均等分割により返済します。一時貸付金の一括償還とは異なり分割返済です。
返済期日までに共済金の返済が無いと、年14.6%の違約金が課されます。
借入は無利子だけれど
共済金の借入は無利子ですが、借入後は共済金の借入額の10分の1に相当する額が払い込んだ掛金から控除されます。
実際に借入をする際にはどの程度掛金が控除されるのかを計算することをおすすめします。
借入の対象とならない場合がある
上記の要件を満たしていても次のようなケース等では借入の対象とならない場合があります。
- 取引先事業者の倒産が加入後6か月未満に生じたものであること
- 加入から倒産日までに6か月分以上の掛金を納付していないとき
- 共済金の借入手続をした共済契約者に倒産または倒産に準ずる自体が生じているとき
- 共済契約者がすでに借入した共済金の返済を怠っているとき
節税するなら所得税の仕組みを知ろう
経営セーフティ共済に限らず、節税策を行う場合は所得税の仕組みを知っている方がより効果的な節税効果を狙うことができるでしょう。
経費と所得控除の違いを知るだけでも節税に対する理解は深まることでしょう。
フリーランスや個人事業主の税金計算の方法についてこちらで詳しく解説しています。
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まとめ
経営セーフティ共済はもしもの時に役に立つ制度です。
ただし借入をするには要件などがあるのでそれを満たしている必要があります。
また、節税についても出口戦略が無ければ節税にならない場合があります。
とくにフリーランスなどの個人事業者は法人と違って利益に所得税が課せられます。
所得税は累進税率といって所得によって税率が大きく変わるので注意しましょう。