この記事の執筆者
税理士 青木征爾
札幌市を中心に活動
新規創業支援や中小企業の経営支援、相続業務を得意とする
こんにちは。札幌市豊平区の税理士の青木です。
フリーランス等の個人事業主の方の中にはご家族と一緒に事業を行っている方はいるかと思います。
なかにはご家族へお給料を支払っている場合も少なくありません。
実は確定申告の間違いの中で、ご家族への給料についての間違いが非常に多いです。
この記事では青色申告者が家族へ支払った給与「専従者給与」で間違えやすいポイントについて解説させていただきます。
ご家族と事業を行っているフリーランスや個人事業主の方は是非ご覧ください。
専従者給与とは
専従者給与とは青色申告をしている個人事業者が家族に対して支払う給与のことです。
生計を一(一つの財布で生活していること)にしている家族に対して支払う給与は本来経費とすることができません。
しかし、専従者給与であれば生計一親族に対する支払であっても経費にすることができます。
専従者給与として認められるには次の要件を満たす必要があります。
- 青色申告者と生計を一にする配偶者その他の親族であること
- その年の12月31日現在で年齢が15歳以上であること
- その年を通じて6か月を超える期間事業に専ら従事していること
- 「青色事業専従者給与に関する届出書」を納税地の所轄税務署長に提出していること
- 届出書に記載されている方法により支払われ、かつその記載されている金額の範囲内で支払われていること
- 専従者給与の額が労務の対価として相当であると認められる金額であること
このように様々な要件があります。そのため確定申告において専従者給与について間違えることは非常に多いです。
専ら従事が要件
専従者給与として認められるには「専ら従事している」という要件があります。
「専ら」とはどのようなことを指しているのでしょうか?
従事すべき時間のほとんどの時間に従事していることを指します。
そのため職業を持っている方や学生等は専従者給与の対象となりません。
また事業の中心でない仕事しかしていない場合(留守番だけであるとかお茶出しだけ等)も専従者給与の対象とはなりません。
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扶養控除、配偶者控除
専従者給与を支払っている場合、その支払いを受けた方を対象とした扶養控除や配偶者控除などは受けられません。
たとえば事業を行っている方の奥さんに専従者給与を支払っている場合は配偶者控除の対象とはならないため注意しましょう。
2つの事業に従事している場合
両親がそれぞれ別の事業を行っている場合に、子どもがそれぞれの事業に従事していたときは同時に専従者とすることができるでしょうか?
専従者の要件に「6か月を超える期間事業に専ら従事」というものがあることは先ほどご説明した通りです。
父の事業に6か月超従事すると母の事業に6か月超従事することはできません。
そのため、いずれか一方のみ専従者となることなるため、同時に両親の専従者となることはできません。
年の途中から支給
専従者給与の要件に「その年を通じて6か月を超える期間事業に専ら従事していること」というものがあります。
しかし、6か月を超えて従事していなくても専従者給与として認められるケースがあります。
それは、相当な理由により事業に従事することができなかった期間がある場合は従事可能期間の2分の1を超える期間専ら従事している場合です。
相当な理由には就職や退職も含まれます。
たとえば8月に会社を退職して9月以降親の事業に従事した場合、従事している期間は9月~12月の4か月間と6か月超に満たないですが、この期間中に専ら従事していれば専従者給与として取り扱うことができます。
赤字の場合
専従者給与を支払ったことにより赤字となった場合において、その専従者給与は経費として認められるでしょうか?
ここでポイントとなるのがその専従者給与が適正額であるかどうかです。
適正額であれば赤字であっても経費として認められます。
ではいくらであれば適正額といえるでしょうか?適正額には明確な基準はなく実態に即し判断します。その判断は次の観点から総合的に判断することになります。
- 労務に従事した期間、労務の性質及びその提供の程度
- 同種同規模の類似した事業の支給する給与の状況
- その事業の種類及び規模並びにその収益の状況
ポイントとなるのは「その事業の種類及び規模並びにその収益の状況」です。
そのため、臨時的な理由により赤字となった場合は専従者給与としてみとめられますが、毎年専従者給与を支払うことにより赤字となった場合は経費としれ認められない可能性があります。
不動産所得で事業的規模ではない場合
専従者給与の根拠条文は所得税法57条です。
この条文には専従者給与の対象は「事業に従事」とあり、専従者給与は不動産所得、事業所得、山林所得の計算上必要経費に算入するとあります。
ここで重要な点は不動産所得については事業として認められる規模があるという点です。
事業として認められるには「5棟10室基準」という基準を満たさなければいけません。
アパートやマンションであれば貸すことができる独立した室数が概ね10以上、戸建住宅であれば概ね5室以上であることとされています。
そのため不動産事業であっても4世帯しかないアパートだけでは事業規模とは認められません。
その場合は専従者給与を経費とすることはできないので注意しましょう。
退職金の支給について
一般の従業員が退職する場合は退職金を支給することもあるかもしれません。この場合その退職金は当然経費となります。
それでは専従者給与を支給した生計一親族に退職金を支給した場合は経費になるでしょうか?
専従者給与を支給した生計一親族への退職金は経費にすることはできません。
退職金は税負担が低く節税策に用いられることも多いです。
フリーランスなどの個人事業主の方が退職金で節税をするのであれば法人成りがおススメです。
未払はNG
専従者給与の要件に「届出書に記載されている方法により支払われ、かつその記載されている金額の範囲内で支払われていること」というものがあります。
重要な点は「支払われていること」という文言です。
経費に計上しているけれど未払となっている場合は専従者給与として経費に算入することが認めれらません。
ただし、資金繰りの都合などで短期的に未払いとなっている場合は認められます。
届け出を忘れてはいけない
専従者給与を支給するには「青色事業専従者給与に関する届出書」を税務署に提出しなければいけません。
提出期限は専従者給与を経費に算入しようとする年の3月15日までです。もし令和5年分の確定申告から専従者給与を支給する場合は令和5年の3月15日まで提出が必要です。申告期限である令和6年3月15日ではないので注意しましょう。
ただし、その年の1月16日以降に新たに事業を開始した場合や新たに専従者がいることになった場合などはその開始した日や専従者がいることとなった日から2月以内です。
相続があった場合
事業者でない方が相続があったことにより事業を引き継いだ場合において専従者給与を支給するときは、青色事業専従者給与に関する届け出書以外に青色申告を受けるために「青色申告承認申請書」を税務署に提出しなければいけません。
それぞれの提出期限について確認しましょう。
青色事業専従者給与に関する届出書
事業を開始した日から2か月以内
青色申告承認申請書
・亡くなった方の死亡の日が1月1日から8月31日まで→死亡の日から4か月以内
・亡くなった方の死亡の日が9月1日から10月31日まで→その年12月31日まで
・亡くなった方の死亡の日が11月1日から12月31日まで→翌年2月15日まで
青色申告承認申請書は相続があった場合の特例がありますが、青色事業専従者給与に関する届出書には期限の特例がありません。届け出期限を間違えないようにしましょう。
支給額を変更する場合
既に提出済みの青色事業専従者給与に関する届出書に記載した給与の基準を変更する場合は「青色事業専従者給与に関する変更届け出書」を提出しなければいけません。
期限については「遅滞なく」ということになっており明確な基準はありません。
実務上は変更後の給与を最初に支給するまでに税務署に提出していれば問題ないものと考えられています。
源泉徴収が必要
専従者給与については、通常の従業員と同様に源泉所得税を徴収しなければいけません。
毎月の給料から控除し、事業者が源泉所得税を納付しなければいけません。
白色申告の場合
専従者給与については青色申告を行っていなければ受けることができません。
白色申告を行っている場合は専従者控除という控除を受けることができます。
ただし、青色事業専従者給与に比べ経費に算入できる金額に制限はあります。
経費となる金額は次の金額のいずれか低い金額です。
①事業主の配偶者であれば86万円、それ以外の親族であれば1人につき50万円
②この控除をする前の所得金額を専従者の数に1を足した数で割った金額
具体例
所得金額 100万円
専従者 配偶者
控除金額 ①86万円 ②100万円÷2=50万円
この場合の控除金額は50万円となります。
なお専従者控除においても次の要件を満たす必要があります。
専従者控除の要件
- 白色申告者と生計を一にする配偶者その他の親族である
- その年の12月31日現在で年齢が15歳以上である
- その年を通じて6月を超える期間、その白色申告者の営む事業に専ら従事している
まとめ
専従者給与はこのように間違えやすいポイントが非常に多いです。
特に注意が必要な点は次の通りです。
- 専ら事業に従事しなければいけない、副業はNG
- 事前に届け出が必要
- 給与は支払われていることが要件
- 支給額は適正額でなければいけない
家族への給与を制限なく費用にすることができると利益操作が簡単にできてしまい、課税上の弊害が生じてしまうため、このように厳しい制度になっています。
専従者給与に限らず確定申告に不安があるフリーランスなどの個人事業主の方は専門家に一度相談してみることをおすすめします。