この記事の執筆者
税理士 青木征爾
札幌市を中心に活動
新規創業支援や中小企業の経営支援、相続業務を得意とする
こんにちは。札幌市豊平区の税理士の青木です。
フリーランスなどの個人事業主は収入が安定しないことは珍しいことではありません。
将来の不安を抱えている方も少なくありありません。
そのような方にはフリーランスなどの個人事業主が使える退職金制度「小規模企業共済」がおススメです。
小規模企業共済であれば月額1,000円から積み立てが可能で、廃業時には共済金を受け取ることができます。
また、積み立てた掛金は所得控除の対象となり、節税につながります。
この記事では小規模企業共済について解説させていただきます。
将来に不安を抱えているフリーランスなどの個人事業主の参考になれば幸いです。
小規模企業共済とは
小規模企業共済とは国の機関である中小企業基盤整備機構が運営する退職金制度で、フリーランスなどの個人事業主の他、小規模企業の経営者や役員を対象としています。
小規模企業共済=退職金というイメージがあるかもしれませんが、小規模企業共済には「節税・貯蓄・借入」という複数の機能を持っています。
月額の掛金は1,000円から70,000円までの範囲内で500円単位で自由に選べます。
加入対象
小規模企業共済には次のいずれかに該当する場合に加入することができます。
- 建設業、製造業、運輸業、サービス業(宿泊業・娯楽業に限る)、不動産業、農業などを営む場合は、常時使用する従業員の数が20人以下の個人事業主又は会社役員
- 卸売業、小売業、サービス業(宿泊業・娯楽業を除く)を営む場合は、常時使用する従業員の数が5人以下の個人事業主又は会社役員
- 事業に従事する組合員、従業員の数が20人以下の企業組合の役員、協業組合の役員
- 常時使用する従業員の数が20人以下であって、農業の経営を主として行っている農事組合法人の役員
- 常時使用する従業員の数が5人以下の弁護士法人、税理士法人等の士業法人の社員
- 上記「1」と「2」に該当する個人事業主が営む事業の経営に携わる共同経営者(個人事業主1人につき2人まで)
※常時使用する従業員には家族従業員、共同経営者(2人まで)は含みません。
このように業種によって要件が異なります。
また、次のような方は加入資格がないので注意しましょう。
- 共同経営者でない配偶者などの事業専従者(事業主の家族である一定の従業員)
- 非営利法人の役員等
- サラリーマン大家(副業として不動産投資をしている場合)
- 役員登記されていない役員
- 生命保険外交員など
どんな場合に共済金を受け取ることができるのか
共済金を受け取ることができるケースは様々です。
代表的なものをいくつかご紹介します。
- 個人事業を廃業した場合
- 契約者が亡くなられた場合
- 65歳以上で180か月以上掛金を払い込んだ場合
- 法人成り(事業の法人化)をしたため加入資格が亡くなった場合
- 任意解約
小規模企業共済のメリット① 所得控除
小規模企業共済は掛金の全額が所得控除となり、節税効果があります。
所得税は累進税率を採用しており、所得が大きければ大きいほど税率は大きくなり5%から45%の税率となります。
例えば毎月1万円の掛金を支払っていた場合は1万×12で12万円の所得圧縮効果があります。税率が10%であれば1万2千円、税率が20%であれば2万4千円の節税効果となります。
所得税の詳しい計算方法についてはこちらをご覧ください
📖あわせて読みたい📖
【確定申告】フリーランス、個人事業主の税金計算の方法
小規模企業共済のメリット② 老後の資産形成
小規模企業共済は積み立てた掛金について、支払った期間に応じ掛金総額よりも大きな金額を受け取ることができます。
通常の金融資産と違いご自身で運用する手間もかからないというメリットがあります。
小規模企業共済のメリット③ 共済金の受取も税制優遇
共済金の受取が一括の場合は退職所得として、分割で受け取る場合は公的年金等の雑所得として所得税を計算します。
いずれの場合であっても一定の控除があるため税負担が少ないといえます。
それぞれの計算方法について確認しましょう。
退職所得の計算方法
退職所得の計算方法
退職所得は分離課税といって他の所得と合算しないで税額を計算します。
(収入金額ー退職所得控除額)×1/2 ×税率ー控除額
退職所得控除額は勤続年数(小規模企業共済の場合、組合員であった年数)で変わります。
勤続年数 | 退職所得控除額 |
20年以下 | 40万円×勤続年数 |
20年超 | 800万円+70万円×(勤続年数ー20年) |
勤続年数に1年未満の端数がある場合は1年とし、端数を切上ます。また計算した退職所得控除額が80万円未満の場合は80万円となります。
退職所得控除額具体例
勤続年数:8年
40万円×8=320万円
勤続年数:35年
800万円+70万円×(35-20)=1,850万円
退職所得の税率と控除額は以下の通りとなっています。
課税退職所得金額 | 税率 | 控除額 |
1,000円から1,949,000円まで | 5% | 0円 |
1,950,000円から3,299,000円まで | 10% | 97,500円 |
3,300,000円から6,949,000円まで | 20% | 427,500円 |
6,950,000円から8,999,000円まで | 23% | 636,000円 |
9,000,000円から17,999,000円まで | 33% | 1,536,000円 |
18,000,000円から39,999,000円まで | 40% | 2,796,000円 |
40,000,000円以上 | 45% | 4,796,000円 |
計算例
収入金額:20,000,000
勤続年数:10年
課税退職所得金額:(20,000,000ー400,000×10)×1/2=8,000,000
所得税:8,000,000×23%ー636,000=1,204,000
退職所得は退職所得控除額があることと、1/2を乗じるため税負担が少なくなっています。
公的年金等の雑所得の計算方法
雑所得は総合課税といって事業所得などの他の所得と合算して税額を計算します。そのため公的年金等の雑所得だけでは税額計算が完結しない場合があります。
公的年金等の雑所得は公的年金等に係る雑所得以外の所得に係る合計所得金額が1,000万円以下、1,000万円超2,000万円以下、2,000万円超で計算が変わります。
今回は1,000万円以下の場合についてご紹介いたします。
公的年金等の雑所得は受け取る人の年齢が65歳未満の場合と65歳以上の場合で計算式が変わります。
受け取る人の年齢が65歳未満の場合
公的年金等の収入金額の合計額 | 公的年金等に係る雑所得の金額 |
60万円以下 | 0円 |
60万円超 130万円未満 | 収入金額の合計額-60万円 |
130万円以上 410万円未満 | 収入金額の合計額×0.75ー27万5千円 |
410万円以上 770万円未満 | 収入金額の合計額×0.85ー68万5千円 |
770万円以上 1,000万円未満 | 収入金額の合計額×0.95ー145万5千円 |
1,000万円以上 | 収入金額の合計額ー195万5千円 |
受け取る人の年齢が65歳以上の場合
公的年金等の収入金額の合計額 | 公的年金等に係る雑所得の金額 |
110万円以下 | 0円 |
110万円超 330万円未満 | 収入金額の合計額-110万円 |
330万円以上 410万円未満 | 収入金額の合計額×0.75ー27万5千円 |
410万円以上 770万円未満 | 収入金額の合計額×0.85ー68万5千円 |
770万円以上 1,000万円未満 | 収入金額の合計額×0.95ー145万5千円 |
1,000万円以上 | 収入金額の合計額ー195万5千円 |
計算例
受け取る人の年齢:70歳
収入金額:400万円
雑所得の金額:400万×0.75-27万5千円=2.725.000円
任意解約の場合は年齢によって取り扱いが変わる
65歳以上の方が任意解約する場合は退職所得として取り扱います。
65歳未満の方が任意解約する場合は一時所得として税額計算をしなければいけません。
一時所得は総合課税といって事業所得など他の所得と合算して税額計算を行います。
一時所得の計算方法
{収入金額ー収入を得るために支出した金額ー特別控除額(最高50万円)}×1/2
ここでポイントとなるのは収入を得るために支出した金額です。小規模企業共済の掛金は収入を得るために支出した金額に含めてはいけません。
掛金は既に所得控除の対象となっています。一時所得の計算でも控除してしまうと2重に控除することになり課税上の不公平を生んでしまいます。
小規模企業共済のメリット④ 借入を受けることができる
小規模企業共済は資金の借入を受けることができます。
掛金の範囲内の借入れにはなりますが、資金繰りが困難な場合の備えになるでしょう。
借入の種類は7種類ありそれぞれ要件や利率が違いますので借入の際は確認しましょう。
小規模企業共済のメリット⑤ 資金の状況に応じて掛金を変更できる
掛金は月額1,000円から70,000円の範囲で自由に選択することができます。
資金繰りの状況に応じて掛金を変更できるので無理のない積み立てができます。
また納付の方法も月払いだけでなく、半年払い、年払いから選択できます。
小規模企業共済のデメリット
メリットの多い小規模企業共済ですがデメリットもあります。
それぞれについて確認していきましょう。
積立期間が短いと元本割れも
小規模企業共済は20年未満で任意解約すると、共済金が掛金合計額を下回ります。
長期的に運用しなければ損をしてしまう制度となっています。
ネット銀行、ゆうちょは対応していない
小規模企業共済はネット銀行(楽天銀行やソニー銀行など)や、ゆうちょ銀行に対応していません。
そのためこれらの金融機関をメインバンクとしている場合は対応する銀行口座が必要となります。
都市銀行(みずほ銀行や三菱UFJ銀行などのいわゆるメガバンク)や地方銀行、信用金庫などは対応しています。
自分で運用できない
資産運用を自分で指図ができないので、積極的に資産運用をしたい方は株式などの金融資産の方が向いているかもしれません。
所得が低いと節税にならない
所得税は累進税率といって所得が大きければ大きいほど税率が上がります。
そのため、所得が低い場合は掛金に対する節税効果も少なくなります。事業が赤字の場合などはそもそも節税効果が無いことになります。
掛け捨てとなるケースも
加入期間が12か月未満で任意解約すると共済金を受け取ることができません。また掛金納付月数が6か月未満の場合に個人事業を廃業等をした場合も共済金を受け取ることができません。
このように一定の場合には掛け捨てとなってしまいます。
申し込み方法
必要書類
契約申込書と預金口座振替申出書を中小機構のHPからダウンロードして記入しましょう。
個人事業主の場合は確定申告書の控え又は開業届が必要です。どちらの場合であっても税務署で受理された控えである必要があります。
法人の役員であれば役員登記が確認できる履歴事項全部証明書が必要となります。
個人事業主、法人の役員のいずれであっても事業の実態を確認できるものが必要です。
共済契約者が亡くなった場合はどうする?
共済契約者である個人事業主等が亡くなった場合は、共済金が支給されることになります。
この共済金はみなし相続財産といって相続税の対象となります。
ではこの共済金を請求できるのは誰でしょうか?
請求権を取得するには順位があります。
1位:配偶者(事実婚を含む)
2位:共済契約者の生計一親族
3位:共済契約者の親族で生計一でないもの
また親族の中でも子ども、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹、ひ孫、甥姪の順位となっています。
相続人となる順位とは異なる点に注意しましょう。
また、配偶者に事実婚を含むというもの相続税と異なる考え方となるのが特徴です。
まとめ
フリーランスなどの個人事業主は会社員などに比べ収入が安定していない場合が多いく老後の心配が絶えないことも少なくありません。ましてや退職金については支給されません。
そのため小規模企業共済の加入により、退職金を準備してみてはいかがでしょうか?貸付制度もあるため資金繰りに不安がある際の助けになることもあるかもしれません。
小規模企業共済はどのように共済金を受け取るかで金額も課税関係も変わってきます。
掛金の積立時には所得控除となり、廃業時には退職所得として税負担が少なく共済金を受け取ることができます。
小規模企業共済を正しく活用して将来の不安に備えてみませんか?