今日は札幌の税理士の青木です。

事業を行う際に設備投資を行うこともあります。実は、設備投資についての経費は法人と個人で取扱いが異なります。

これから起業や新規創業をされる方、すでに個人事業として開業しているけれども法人化を検討している方については、この違いについて理解していないと税額計算や資金計画が思った通りにいかなくなるかもしれません。

この記事を読めば設備投資にかかる費用についてご理解いただけるかと思います。

新たにビジネスを始め起業される方や独立される方、法人を設立される方の助けになれば幸いです。

この記事でわかること

  • 減価償却:法人は任意償却、個人は強制償却
  • 法人=定率法、個人=定額法
  • 中古資産の耐用年数は短い
  • 土地は減価償却しない=経費にならない

設備投資は全額が経費になるわけではない

設備投資をした場合、その購入金額の全てが直ちに経費となるわけではありません。

設備投資にかかった 購入金額は、固定資産に計上され減価償却を通じて経費となります。

減価償却費=時の経過に応じて経費化

減価償却とは、時の経過に応じ経費にすることをいいます。

固定資産はその種類と用途に応じて法定対応年数というのが定められており、その耐用年数にわたって減価償却を行います。

法定耐用年数とは

法定耐用年数とはその資産がどれだけ使えるかというのを表している年数で、国税庁が定めているものです。

例えば一般的な乗用車であれば法定耐用年数は6年となります。

6年と言われて疑問を持つ方もいるかもしれません。実際の乗用車は6年以上使える場合がほとんどかと思います。

ではなぜ法定耐用年数とのわざわざ定めているのでしょうか?

納税者の負担の軽減と公平性を保つために法定耐用年数というものが決められています。

もし法定耐用年数というものが定められていない場合は、納税者はその資産ごとにどれだけの年数を使えるかというのを見積もらなければいけなくなります。

この見積もりを資産ごとに一つ一つ行うのは非常に負担となります。

また、法定耐用年数があることにより、納税者ごとに耐用年数のばらつきがなくなるため、同じ資産を取得した際の課税の公平性を保てます。

中古資産は耐用年数が短い

中古資産を取得した場合は、その資産の法定耐用年数ではなく事業用として使った時点における使用可能期間とし見積もりられる年数を持って耐用年数とすることができます。

先ほどご説明した通り資産の耐用年数を見積もることは非常に負担となります。

そのため中古資産の耐用年数については簡便法という方法により算定することも認められています。

一般的には中古資産を取得した際にはこの簡便法により耐用年数を計算することが多いです。

中古資産の耐用年数(簡便法)

1.法定耐用年数の全部を経過した資産
その法定耐用年数の20%に相当する年数

2、法定耐用年数の一部を経過した資産
法定耐用年数から経過した年数を差し引いた年数に経過年数の20%に相当する年数を加えた年数

これらの計算により算出した年数に1年未満の端数があるときは、その端数を切り捨てその年数が2年に満たない場合は2年とします。

具体例
法定耐用年数の全部を経過した資産
車両:法定耐用年数6年 経過年数8年
6×20%=1.2(2年に満たない)→2年

法定耐用年数の一部が経過した資産
機械(食品製造設備):法定耐用年数10年 経過年数6年
10-6+6×20%=5.2(端数切捨)→5年

土地は減価償却しない

設備投資であっても土地については減価償却をしません。

なぜなら時の経過とともに価値が低下しないと考えられているからです。

建物や機械などは減価償却を通じて経費となりますが、土地については経費とならない点に注意しましょう。

法人と個人では減価償却の方法が異なる

法人は任意償却、個人は強制償却

法人は法定耐用年数に基づく償却限度額の範囲内であれば経費として認められます。そのため法人の減価償却を任意償却と呼ぶ場合があります。

それに対し個人は減価償却を必ず行わなければいけません。法人の任意償却に対し強制償却と呼ぶことがあります。

減価償却費の任意償却があるため法人は損益をコントロールしやすいといえます。

定額法と定率法

減価償却の方法は定額法と定率法という方法があります。

定額法は固定資産の購入金額を耐用年数に応じ均等に経費化します。

定率法はまだ償却をしていない金額に一定の割合をかけて減価償却を行います。定率法はの特徴は初年度の経費が大きく、耐用年数が終わるころには経費となる金額が少なくなることです。

計算例
定額法:取得価額300万円 耐用年数10年(償却率0.100の場合)

1年目2年目3年目
減価償却費300,000300,000300,000
未償却残高2,700,0002,400,0002,100,000

計算例
定率法:取得価額300万円 耐用年数10年(償却率0.200の場合)

1年目2年目3年目
減価償却費600,000480,000384,000
未償却残高2,400,0001,920,0001,536,000

ご覧いただくとわかるのですが定率法の方が早く経費にすることができます。

ただし定額法に比べ計算が複雑です。1年目の償却費は取得価額の300万円に償却率である0.200をかけています。

2年目は1年目の償却費控除した金額240万円に償却率である0.200をかけています。

定率法は未償却残高を使用して計算を行うという点に特徴があります。

個人は原則定額法

償却方法ついては個人は原則的に定額法で償却を行います。

建物であろうと機械装置や車両運搬であろうと全て定額法です。

それに対し法人は建物、建物附属設備、構築物については定額法。機械、車両運搬具、工具器具備品などについては定率法となります。

償却方法を変更するには届出が必要

例えば個人事業を行っている方が機械装置について定率法を採用したいという場合や、法人が車両運搬具について定額法を採用したいという場合については、償却方法変更の承認申請を受けることにより償却方法を変更することができます。

ただし建物、建物附属設備、構築物については定額法しか採用することができないので、定率法に変更することはできないことにご注意ください。

個人
(原則)
個人
(選択可能)
法人
(原則)
法人
(選択可能)
建物定額法選択不可定額法選択不可
建物付属設備定額法選択不可定額法選択不可
構築物定額法選択不可定額法選択不可
機械装置定額法定率法定率法定額法
車両運搬具定額法定率法定率法定額法
工具器具備品定額法定率法定率法定額法

個人はプライベートの分は経費にならない

個人の場合は、設備投資した資産を仕事とプライベートの両方に使ってるというケースがあるかと思います。

その場合は経費に算入できる減価償却費は事業に使った割合に応じた部分だけとなります。

この割合に応じた部分だけ経費となるという考え方を家事按分と言います。

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仕事とプライベートの両方に使っているなら家事按分が必要

年の中途に取得した資産の減価償却

年の中途で取得した資産の減価償却については、1年文の減価償却費を経費にすることはできません。

事業に使った月数に応じて減価償却をします。この場合月の途中に取得したことにより1月未満の月がある場合は1月に切り上げて計算します。

法人個人対比表

個人法人
償却方法
(建物などを除く)
定額法定率法
減価償却費の計上強制償却任意償却

青色申告で30万円未満の資産は経費になる「少額減価償却資産」

一組10万円以上の資産を取得した場合は固定資産に計上しなければいけません。

固定資産とは先ほどご説明したとおり減価償却費を通じて経費となるため、資産の購入金額が直ちに経費となるわけではありません。

青色申告を行うと30万円未満の減価償却資産については少額減価償却資産の特例と言って、購入時に全額費用処理することができます。

この特例は年間300万円に達するまでの金額が対象となります。

ここでご注意いただきたいのは年間300万円という金額についての考え方です。

一組24万円の資産を13組購入したとします。24万円×13=312万円ですが、この場合300万円までが経費となるのではなく、24万円×12=288万円までが経費となります。

13組目については適用を受ける部分と受けない部分というのを分けることができないので、対象となるのは12組分だけとなります。

30万円未満は「税込」「税抜」

30万円未満というのの判定については、その会社の経理処理が税込か税抜によって変わってきます。

税込経理を行ってる会社は30万円未満の判定についても税込金額で行います。同様に税抜経理を行ってる会社は税抜金額で判定を行うこととなります。

そのため税抜経理を行ってる会社の方が少額減価償却資産の特例の対象となる金額が大きくなります。

設備投資で節税するなら「特別償却」と「税額控除」

設備投資を行うと通常の減価償却の多い金額を償却することができる特別償却というものや、設備投資額に一定の割合を乗じた金額を所得税または法人税から控除することができます。

代表的なものとして中小企業投資促進税制や中小企業経営強化税制があります。

中小企業投資促進税制

青色申告書を提出する中小企業者等を対象とし、対象設備を事業に使うと中小企業投資促進税制の適用を受けることが出来ます。

中小企業投資促進税制では設備投資をした金額の30%相当額を特別償却として経費に算入することができます。又は設備投資をした金額の70%相当額の税額控除を受けることができるという制度になっています。

特別償却と税額控除は選択適用となっているので重複して受けることはできませんのでご注意ください。

中小企業投資促進税制:対象設備

設備取得価額要件
機械装置1基の取得価額が160万円以上のもの
測定工具・検査工具1基の取得価額が120万円以上のもの
一定のソフトウェア70万円以上のもの
普通貨物自動車車両総重量3.5トン以上

中小企業投資促進税制は所得税や法人税の申告の際に一定の書類を添付することにより適用を受けることができます。

事前の申請や 届出が不要であるため 適用の受けやすい制度と言えます。

中小企業経営強化税制

青色申告書を提出する中小企業者等で中小企業等経営強化法第17条第1項の認定を受けた特定事業者等を対象としています。

中小企業経営強化税制では設備投資した金額を全額償却できる即時償却を受けることができます。又は設備投資した金額の10%の税額控除の選択適用となっています。

先ほどの中小企業等取得申請制と同様に、即時償却と税額控除は選択適用のため 重複して適用を受けることができないことに注意しましょう。

中小企業経営力強化税制:対象資産

設備取得価額要件
機械装置160万円以上
工具30万円以上
器具備品30万円以上
建物付属設備60万円以上
ソフトウェア70万円以上

中小企業経営力強化税制は、経営力向上計画の認定を受ける必要があります。

この認定は設備の取得前に行わなければいけないため、期間を要します。

認定の要件は非常に細かいものとなっているため、中小企業投資促進税制に比べ適用を受けるハードルは高いと言えます。

しかし、即時償却をすると税額へのインパクトは非常に大きいものとなっています。

適用を受けられる場合は積極的に活用しましょう。

個人事業を法人化する際は設備を引き継がなければいけない

個人事業を法人化するには設備を個人から法人に引き継がなければいけません。

引き継ぐ方法は「売却」または「賃貸」による引き継ぎとなります。それぞれ注意すべき点が異なりますので確認していきましょう。

売却による引き継ぎ

売却をした場合売り手である個人には譲渡所得が発生します。

この点を失念してしまうと法人成りをした年の所得税の負担が非常に大きくなってしまう場合があります。

売却価格に注意

売却金額が低ければ、売却による所得税が発生しないと考える方もいるかもしれません。

しかし時価の1/2未満の金額で売買をすると、時価でその資産を譲渡したものとして所得税の計算を行うので注意しましょう。

売買により固定資産を引き継ぐ場合は、時価の1/2以上の金額で取引を行いましょう。

耐用年数が引き継げない

法人化した際の引き継いだ設備の耐用年数については、引き継ぐことができません。

個人事業の償却期間をそのまま法人に適用するわけではないのでご注意ください。

法人は中古の資産を取得したものとして 耐用年数を計算します。

賃貸による引継ぎ

法人側においては賃借料は経費

賃貸による引き継ぎをした場合、法人側において賃借料は経費となります。

売買で引き継ぐ場合に比べ、減価償却費のような複雑な計算はしません。

売却に比べ、引き継ぎに大きな資金を必要としないことも特徴です。

個人は確定申告が必要となる

引き継ぎをした個人においては確定申告が必要となります。

引き継ぐ資産によって所得区分が変わるので注意をしましょう。

土地や建物を賃貸した場合は不動産所得となります。

機械や器具備品などの賃貸であれば事業所得または雑所得となります。

ただし、事業所得となるには社会通念上事業と認められるだけの規模が必要なります。

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まとめ

設備投資を行った際の取り扱いについて、法人・個人の違いについて説明しました。

最も大きな違いとして法人は任意償却、個人は強制償却という点にあります。

これにより法人は損益をコントロールしやすいと言えます。

これから起業や法人化をお考えの場合、設備投資以外についても考えなければいけない点は非常に多いです。

起業、新規創業、法人成りで不安がある場合は専門家へ相談することもご検討されてはいかがでしょうか?