今日は。札幌の税理士の青木です。
個人事業主として起業されている方の中には、ご自身の事業を法人化(法人成りといいます)することを検討している方もいるかと思います。
個人事業で使用している土地や建物といった不動産は新たに設立する法人に引継がなければいけません。
ここで注意しなければいけないことは引き継ぐ方法によって、税負担が大きく変わる場合があるということです。
今回は法人成りをする際に、土地や建物といった不動産の引き継ぎについてお話をさせていただきます。
既に起業されている方や、これから新たにビジネスを始める方、独立や新規創業をお考えの方の手助けになれば幸いです。
この記事でわかること
- 不動産の引継ぎ方法は「売却」か「賃貸」
- 売却する場合には個人に譲渡所得が課税される
- 売却金額が時価の1/2未満=みなし譲渡課税により税負担が増える
- 法人側は減価償却を通じて費用処理
- 引き継いだ建物の耐用年数=中古資産の耐用年数
- 賃貸の場合 個人に確定申告の義務が 青色申告控除額を65万円にするには
- 無償で貸す=使用貸借という方法も
不動産を引き継ぐ方法は2つ「売却」「賃貸」
法人が個人事業主からどちら建物などの不動産を引き継ぐ方法は二つあります。
一つ目の方法は個人から法人への「売却」で、もう一つの方法は個人から法人への「賃貸」です。
※現物出資という方法もありますが一般的ではないため説明を割愛します。
なお、現物出資であっても個人にとっては売却と同じ扱いとなります。
それぞれについて注意点を確認しましょう。
売却の注意点(個人の取り扱い)
売り手である個人事業主は譲渡所得が発生
土地や建物などの不動産を売却した個人事業主には譲渡所得が発生します。
個人事業主にとっては法人成りをしたとしても引き続きご自身の事業に使っているため実態が変わらないと感じるかもしれません。
しかし個人と法人では別人格として取り扱うため売却には税負担が生じます。
土地や建物の譲渡所得についてはその不動産を所有していた期間によって税額計算が変わります。
譲渡の年の1月1日において所有期間が5年を超えるものを分離長期所得といい、所有期間が5年以下のものを分離短期所得と言います。
それぞれの税率について確認しましょう。
不動産を売却した際の税率
- 分離長期所得:所得税15% 住民税5% 合計20%
- 分離短期所得:所得税30% 住民税9% 合計39%
このように分離長期所得と分離短期所得では倍近く税率が変わります。
長い間保有していた不動産の方が税負担が少ないこととなります。
売却時の金額の適正額とは 時価の1/2未満=みなし譲渡課税
土地や建物といった不動産を時価の1/2未満で売却した場合には、みなし譲渡と言って時価でその不動産を売却したものとして税額計算を行います。
時価とは「実売価格」や「実勢価格」のことです。
「相続税評価額」や「固定資産税評価額」とは異なる金額になります。
相続税評価額用いる場合は0.8で割り返し、固定資産税評価額をを用いる場合は0.7で割り返すと時価に近づきます。
みなし譲渡が適用されるケース
土地(時価):2,000
売買金額 :800
時価×1/2=1,000>800 ∴みなし譲渡
実際は800で売却しているが譲渡所得の計算は2,000で行うため税負担が増える
棚卸資産の低額譲渡とは考え方が違う
法人成りをする場合、個人事業主が保有する商品在庫などの棚卸資産を引き継ぐケースもあるかと思います。
棚卸資産を引き継ぐ場合は個人事業主から法人へ売却をします。不動産のように賃貸をすることはできません。
売却金額ついては通常の販売価格の70%未満で売却した場合は、売却額と通常販売価格の70%の差額については売上に追加計上しなければいけません。
不動産と同様に低額で売買をすると税負担が増えるケースがありますが、不動産と棚卸資産では考え方が違うので注意しましょう。
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売買の注意点(法人の取り扱い)
買手である法人は固定資産に計上
買い手である法人は土地や建物などの不動産を固定資産として計上し、減価償却を通じて経費となります。
減価償却とは耐用年数にわたり、時の経過とともに費用処理する方法です。
ここで注意していただきたいのは土地については減価償却をしないということです。
なぜなら土地は時が経過しても価値が低下しないと考えられているからです。
別の見方をすると法人は土地を取得しても経費に算入することができないともいえます。
建物については減価償却で費用処理をしていきます。ここで重要なのは耐用年数です。
引き継いだ建物の耐用年数とは
新築の建物を取得した場合はその建物の構造や用途によって耐用年数というのが定められています。
個人事業主から引き継いだ建物については、中古の資産を取得したものと同様に対応年数を計算します。
個人事業を行っていた時の未償却年数をそのまま引き継ぐわけではないのでご注意ください。
中古の固定資産については法定耐用年数ではなく、取得後の使用可能期間としてい見積もられる年数による耐用年数とします。
また使用可能期間の見積もりが困難であるときは簡便法により算定した年数をもって耐用年数とすることができます。
一般的は中古資産の耐用年数については簡便法により算定することが多いです。
中古資産の耐用年数:簡便法
- 法定耐用年数の全部を経過した資産
その法定耐用年数の20%に相当する年数 - 法定耐用年数の一部を経過した資産
その法定耐用年数から経過した年数を差し引いた年数に経過年数を20%に相当する年数を加えた年数
算出した年数に1年未満の端数があるときはその端数切り捨て、その年数が2年に満たない場合は2年とする
具体例:法定耐用年数30年 経過年数20年
30ー20+20×0.2=14年
賃貸の注意点
賃貸の場合は売買のように引き継いだ時点では大きな税負担は生じません。
しかしながら賃貸であっても、貸し手である個人に税負担が生ずる場合があります。
貸手(個人)は不動産収入について確定申告が必要
貸し手である個人は法人から受け取る不動産収入について確定申告を行わなければいけません。
税負担が生ずる場合もありますし、事務的な負担が生ずることがあります。
個人事業者が青色申告をする場合は青色申告特別控除というものを受けることができます。
青色申告特別控除額は10万円から最大65万円となっています。
青色申告特別控除で65万円の控除を受けるには
不動産所得で青色申告特別控除で65万円の控除を受ける要件は次のとおりとなっています。
65万円の青色申告特別控除額
- 不動産の賃貸が事業的規模である
- 複式簿記により記帳している
- 電子帳簿保存または確定申告の期限までに電子申告を行っている
不動産の賃貸が事業的規模であるかどうかは、賃貸している不動産の数によって変わります。
5棟10室基準と言って、独立した家屋の貸付であればおおむね5棟以上であること、アパートなどであれば貸すこともできる独立した部屋数が概ね10室以上であること。この要件を満たせば事業的規模を満たしていると言えます。
複式簿記による記帳というのは一般的な会計ソフトで帳簿を作成していれば満たすことができる要件です。そのためこの要件を満たすことはそれほど難しくありません。
電子帳簿保存または電子申告という要件については、近年では電子申告という申告方法が主流なので期限内に申告をすれば満たせる要件かと思われます。
➊、❷の要件を満たしている場合であって❸の要件を満たしていない時の青色申告特別控除は55万円となります。
ただしこの場合であっても確定申告の期限内に申告書を提出しなければいけません。
事業的規模でなくても10万円の控除は受けられる
65万円、55万円の控除の要件に該当しない場合であっても、10万円の青色申告控除額を受けることができます。
法人成りで財産を引き継ぐということを前提とすると事業的規模を満たすことは難しい場合が多いと思います。
その場合であっても青色申告であれば10万円の控除額を受けることができるので積極的に活用していきましょう。
借手(法人)の会計処理について
法人における会計処理は、支払った不動産の賃借料は経費となります。
ここで注意をしていただきたいのは消費税の取扱いです。
土地の賃借料については消費税は非課税仕入となります。
建物については事務所や倉庫として借りている場合は課税仕入となります。
ケースとしては少ないかと思いますが、社宅のように居住用建物の家賃は非課税仕入となりますので注意しましょう。
無償での貸付(使用貸借)という方法
土地や建物の賃貸の場合、賃借料を収受しない使用貸借という方法もあります。
この方法であれば資金の移動がなく、法人が不動産を使用するとができます。
この場合に注意していただきたいのは土地を使用貸借する場合です。
個人から使用貸借により借りている土地の上に法人が建物を建てた場合は、個人から法人が借地権をもらったものとして多額の税金を課せられる場合があります。
このような課税を借地権の認定課税と言います。
借地権の認定課税を受けないためには「土地の無償返還に関する届出書」という届出書を税務署に提出する必要があります。
この届出書を提出すれば将来法人が個人に土地を無償で返還するという意思表示をしたことになります。
土地を使用貸借する場合は「土地の無償返還に関する届出書」の提出を忘れないようにしましょう。
不動産以外の固定資産の引き継ぎ方法
土地や建物以外であっても個人事業で使っていた固定資産をあるかと思います。
例えば器具備品であったり機械であったり様々なものがあるでしょう。
このような固定資産も土地や建物といった不動産と同様に売却または賃貸により引き継ぐこととなります。
器具備品や機械のような固定資産についてもみなし譲渡の規定はあるため売却する際の金額には注意をしましょう。
このような固定資産については土地や建物に比べ、時価を算定することが難しい場合があります。
車両などであれば買取業者などの査定を参考にするのも、時価を測定する一つの方法といえます。
賃貸:所得区分は雑所得又は事業所得
不動産以外の固定資産を賃貸した際の収入は「雑所得」または「事業所得」に該当します。
賃貸であっても不動産所得とはならないため注意しましょう。
「雑所得」か「事業所得」に該当するかは、その賃貸の規模は社会通念上事業に該当するかどうかによります。
賃貸する資産が多数なったりその賃貸収入が多額である場合などは事業所得となります。
個人的な見解ではありますが、法人成りにより財産を引き継ぐための賃貸は事業所得に該当するケースは少ないのではないかと思います。
「雑所得」と「事業所得」の違い
雑所得も事業所得も収入から経費を引いて税額計算をします。
これらの所得の違いは大きく分けて三つあります。
- 損益通算
- 青色申告控除額
- 専従者控除
損益通算とは損失が生じた場合において他の所得と相殺することができるというものです。
雑所得は損益通算が認められてませんが事業所得については損益通算が認められてます。事業所得に赤字が生じた場合は他の所得と相殺することが出来ます。
青色申告控除については先ほどご説明した通り10万円から65万円の控除が認められています。雑所得は青色申告控除は認めれておりませんが、事業所得は青色申告控除の適用を受けることが出来ます。
専従者控除とは白色申告者の家族が事業に従事している場合に受けることができる控除のことです。
こちらについても雑所得では控除を受けられませんが、事業所得では控除を受けることができます。
不動産以外の固定資産を賃貸してる場合に事業的規模があるときは事業所得となります。ここまでのご説明の通り雑所得に比べ事業所得の方が税制優遇がされており税負担が少なく有利です。
法人成りは所得の分散で節税になる
個人事業に比べ法人での事業は社会的信用が高いと言えます。
法人成りのメリットはそれだけではありません。
法人が個人に役員報酬を支払うことにより所得を分散することができます。
これにより個人事業に比べ税負担が少なくなるという場合があります。
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まとめ
個人事業主が新たに設立した法人に建物や土地などの不動産を引き継ぐ場合の方法について説明させていただきました。
引き継ぎ方法は大きく三つに分けて「売却」「賃貸」「使用貸借」となります。
選択する方法によって税負担が変わってくるのでご自身の状況に合った方法で財産を引き継ぐことをおススメします。
財産の引継ぎ以外であっても法人成りについては論点が非常に多いです。
これから法人を設立を考えている方で、新規事業について不安をお持ちであれば専門家に相談をしてサポートを受けるのも方法のひとつです。
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