こんにちは。札幌の税理士の青木です。
個人事業主として起業されている方の中には今後事業を法人化(法人成りといいます)することを考えてる方もいるかもしれません。
今回は法人成りをすることによるメリットとして、所得の分散による節税についてお話しさせていただきます。
すでに事業を始めてる方はもちろんですが、これから新たにビジネスを始める方、新規事業を創設される方にも参考になるかと思いますのでぜひご覧になってください。
この記事でわかること
- 法人成りのメリット=所得の分散による節税
- 給与所得控除による節税
- 基礎控除による節税
- 家族への給与も所得の分散になる
- 法人は赤字でも納税しなければいけない
- 法人の資金は社長のものではない
- 退職金の支給で節税
- 個人事業の資産を引き継ぐ場合の税負担について
法人成りで所得を分散=節税メリット
個人事業主は事業主へ給料を支払うということはできません。
事業の利益はすべて事業主のものなので事業主の給料を支払うという概念がないのです。
それに対し法人は事業主である社長に対し役員報酬という形で給与を支払うことができます。当然この役員報酬は経費に算入されるものです。
役員報酬の支給を受けた社長においては所得税が課税されます。
支給を受けた給料は給与所得控除、基礎控除という控除を受けた後の金額に課税されるので節税につながります。
また、所得税と法人税は税率が違うため役員報酬の金額によっては税負担を抑えることができます。
給与所得控除とは
給与所得控除とは給与をもらっている人が受けられる控除の事です。
事業を行ってる人は売上から経費を引いて所得を計算しますが給与所得を受けている人は経費を引くということはできません。
この給与所得控除という控除を受けることにより必要経費に相当する金額を給与収入に応じて一定額控除することができます。
つまり実際に必要経費に相当するものがなくても給与収入であれば所得から控除できるという仕組みになっています。
給与所得控除額
給与収入 | 給与所得控除額 |
1,652,000円まで | 55万円 |
1,625,001円から1,800,000円まで | 収入金額x40%-10万円 |
1,800,001円から3,600,000円まで | 収入金額x30%+8万円 |
3,600,001円から6,600,000円まで | 収入金額x20%+44万円 |
6,600,001円から8,500,000円まで | 収入金額x10%+110万円 |
8,500,001円以上 | 195万円 |
具体例:給与収入が500万円の場合
給与所得控除額:500万円×20%+44万円=144万円
所得金額:500万円-144万円=356万円
給与収入が500万円ある場合はそのすべてに課税されるのではなく356万円に課税されることになります。
基礎控除の活用
所得の分散効果によるメリットは給与所得控除だけではありません。
基礎控除といって合計所得金額が2,400万円以下の人であれば所得金額から48万円を控除することができます。
法人税と所得税の税率の違いを利用した節税
法人税の税率は所得金額800万円以下の部分については15%、800万円を超える部分については23.2%となっています。
その他に地方法人税や法人住民税などが課せられますが、年間の課税所得が800万円以下の中小企業であればこれらを合計した税率は25%程度です。
それに対し所得税は超過累進税率といって所得が大きければ大きいほど高い税率が課せられます。なお住民税については一律で10%となっています。
所得税の税率
課税所得金額 | 税率 | 控除額 |
1,949,000円まで | 5% | 0円 |
3,299,000円まで | 10% | 97,500円 |
6,949,000円まで | 20% | 427,500円 |
8,999,000円まで | 23% | 636,000円 |
17,999,000円まで | 33% | 1,536,000円 |
39,999,000円まで | 40% | 2,796,000円 |
40,000,000円以上 | 45% | 4,796,000円 |
具体的計算例
それでは具体的に個人事業主が法人成りをした場合において、どのくらい税負担が変わるか確認しましょう。
前提:
売上900万円
経費200万円
役員報酬:400万円
法人税などの税率25%
※基礎控除以外の所得控除はなく社会保険は考慮に入れないものとします。
所得税と住民税の控除額の差異は無視しています。
個人事業の場合
売上 | 900万円 |
経費 | 200万円 |
青色申告特別控除 | 65万円 |
基礎控除 | 48万円 |
課税所得金額 | 587万円 |
所得税 | 746,500円 |
住民税(10%) | 587,000円 |
税負担合計 | 1,333,500円 |
法人成りの場合
・法人税等
売上 | 900万円 |
経費 | 200万円 |
役員報酬 | 400万円 |
課税所得金額 | 300万円 |
法人税等(25%) | 75万円 |
・所得税
給与収入 | 400万円 |
給与所得控除 | 124万円 |
基礎控除 | 48万円 |
課税所得合計 | 228万円 |
所得税 | 130,500円 |
住民税(10%) | 228,000円 |
税負担合計 | 358,500円 |
法人個人での税負担合計:1,108,500円
このようなケースであれば個人事業よりも法人成りをした方が税負担が少なくなり、年間で22万5千円の差額が生じることになります。
家族への給料で所得を分散
所得の分散は事業主(社長)に限った話ではありません。
個人事業の場合、事業主の家族に給与を支給する場合は専従者に限られます。
専従者とはその名の通り専らその事業に従事する者をいいます。
そのため他に仕事を持っている場合は専従者に該当せず、給与を支給することはできません。
日中は事業を手伝って、夕方はパートに行くような場合は専従者とはならないです。
しかし、法人を設立した場合は専従者という概念は無くなります。
例えば、社長の家族が役員として法人の事業に従事しながら、フリーランスとして個人事業を行うといった複業をすることもできます。
もちろん、役員として従事する実態がなければ役員報酬は支給できませんのでその点は注意しましょう。
個人事業 | 家族への給与は制限がある |
法人 | 家族への給与を支給することができる |
家族に給与を支給した場合も、その家族は給与所得控除と基礎控除は受ることができるので節税効果があります。
法人成りの際はシミュレーションが重要
法人成りをする際はしっかりシミュレーションを行いましょう。
さきほどご説明した通り法人と個人で税制が違うため、法人成りをすると税額計算の方法が変わります。
特に重要なのは役員報酬の設定です。
役員報酬は毎月の支給額が同額でなければ経費に算入することができません。
役員報酬の改定についても決まった時期にしか行うことができません。
しばらくしてから上げることや下げることはできないので注意しましょう。
法人成りについてその他の注意点
法人成りすると赤字でも税負担が生ずる
個人事業は赤字の場合は所得税などの税負担は生じません。
これに対し法人の場合は赤字であっても法人県民税、法人市民税の均等割という税金を納付しなければいけません。
法人の規模や自治体によって金額は異なりますが、年間7万円の場合が多いです。
また申告についても個人事業の場合は所得が無い場合は申告の義務はありませんが、法人の場合は赤字であっても申告をしなければいけません。
法人の資金は社長のものではない
個人事業の場合は事業用の資産や資金は全て事業主のものです。
そのため事業用の資金であっても事業主が自由に使えます。(経費になるかどうかとは別の話なのでご注意ください)
生活費が足りなくなったので事業用の資金を使ってもなにも問題ありません。(当然ですが経費にはなりませんが)
しかし、法人成りした場合、法人の資金は法人のものです。
たとえオーナー社長であっても法人の資金を私用に使うことは許されません。(事業に使う分には自由に使うことはできます)
社長が私用に使っていいのは役員報酬だけです。生活費が足りないからといって法人の資金を使うことはできないので注意しましょう。
退職金を支給できる
個人事業の場合は事業主に退職金を支払うということはできません。
しかし法人であれば事業主である社長に退職金を支払うことができます。
法人側においては退職金は経費になります。ただし不相当に高額な部分は経費にならないのでご留意ください。
社長においては退職金は退職所得として所得税が課税されます。
しかし、退職所得は退職所得控除と言って税負担が少ない所得になります。
具体的な算式は次のとおりとなります。
退職所得控除額
(勤続年数20年以下の場合)
勤続年数×40万円
(勤続年数が20年超の場合)
800万円+70万円×(勤続年数ー20年)
このような控除額が認められているだけでなく、退職金から退職所得控除額を控除した金額に1/2を乗じた金額に所得税の税率を乗じて税額を計算します。
退職所得は他の所得に比べ税負担が軽くなるように配慮されているので、給与として支給するよりも役員報酬として支給を受ける方が税負担が少なくなる場合があります。
個人資産を引き継ぐ場合には税負担が生ずる場合も
法人成りをした際に個人で所有していた事業用資産を引き継ぐ方法は大きく分けて2つあります。
1,個人から法人へ売却
2,個人と法人で賃貸借契約を結ぶ
個人事業で保有していた棚卸資産は個人から法人へ売却しなければ引き継ぐことはできません。
そのため、法人成りの際に個人において売上があがることがあります。
個人において税負担が生ずることとなりますので法人成りの際にはあらかじめ税負担を予測しておくことをおススメします。
また個人事業で使っていた不動産や機械などの固定資産については必ずしも売却をしなければいけないわけではありません。
賃貸借をするという方法もあります。こちらの場合であっても賃貸借による収入は個人の所得となるため課税の対象となることに注意しましょう。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
法人成りのメリットとして所得の分散による節税メリットについてご理解いただけたでしょうか?
法人と個人で利益を分散し、法人と個人の税制の違いによる節税について解説しました。
すでに個人事業を行っている方はもちろんですが、これから独立される方や起業、新規創業される方にとってもお役に立てれば幸いです。
起業や創業、法人設立をする事前のシミュレーションが重要なのは先ほどご説明した通りです。
もしビジネスをはじめる際に不安があるのでしたら専門家へ相談しサポートを受けることをおススメします。