こんにちは、札幌の税理士の青木征爾です。
免税事業者がインボイス登録を行うことにより課税事業者となるケースは多いことでしょう。
特にフリーランスや個人事業主などはこのようなケースに該当することは多いです。
そのような場合、消費税の納税が負担となります。今まで生じていない負担が発生するため事業の継続性に問題が生ずる場合も起こりえます。
小規模事業者の消費税の計算方法は次のように3つあります。
・令和5年度税制改正による軽減措置
・簡易課税
・本則課税
この記事では消費税の計算方法について解説します。ご自身に有利な消費税の計算方法を選択する際の参考になれば幸いです。
【軽減措置】売上に対する税額の2割の納税でOK
令和5年度税制改正により、免税事業者がインボイス発行事業者になった場合は、売上に対する税額の2割を納税額とする軽減措置が定められました。
インボイス制度の導入が無ければ税負担が生じなかった事業者を対象とする軽減措置となります。
適用期限は令和8年9月30日の属する課税期間までとなりますので、3年間は納税額の負担が少なくなる可能性があります。
業種による制限が無く、事前の届け出も不要です。適用を受ける際に消費税の申告書に記載をするだけですので使い勝手のよい制度というのも特徴のひとつです。
実務上は軽減措置と簡易課税又は本則課税のどちらか有利な方を選択することになります。
具体的計算例
- 売上高 880万円(消費税 80万円)
- 仕入高 660万円(消費税額 60万円)
納税額=80万円×20%16万円
ここで注意が必要なのは卸売業を行っている事業者です。卸売業については軽減措置(20%を納付)より簡易課税(10%を納付)の方が納税額が少なくなります。(簡易課税については後述します)
【税負担以外のメリット】
軽減措置を適用するメリットは税負担だけではありません。
インボイス制度において仕入税額控除(売上に係る消費税から仕入に係る消費税を控除すること)の要件にインボイスの保存が求められます。
軽減措置を適用する場合はインボイスの保存は不要になるというメリットがあります。
【簡易課税】卸売業なら簡易課税が有利
ふたつ目にご紹介する消費税の計算方法は簡易課税です。
簡易課税も軽減措置と同じく売上に係る消費税を基に納税額を計算します。
ただし、簡易課税は業種により控除できる割合が変わります。この割合をみなし仕入率といいます。
売上に係る消費税額から、売上に係る消費税額にみなし仕入率を乗じた金額を控除(仕入税額控除)して納付税額を算出します。
事業区分 | みなし仕入率 | 納付税額 売上に係る消費税に対する割合 |
第1種:卸売業 | 90% | 10% |
第2種:小売業、 農業・林業・漁業(食料品に係るもの) | 80% | 20% |
第3種:建設業、製造業、電気業、 農業・林業・漁業(食料品に係るものを除く) | 70% | 30% |
第4種:いずれの業種にも該当しないもの | 60% | 40% |
第5種:飲食店を除くサービス業 運輸通信業、金融業、保険業 | 50% | 50% |
第6種:不動産業 | 40% | 60% |
具体的計算例
サービス業(みなし仕入率50%)の場合
- 売上高 880万円(消費税 80万円)
- 仕入高 660万円(消費税額 60万円)
売上に係る消費税額 80万円
仕入税額控除 80万円×50%=40万円
納付税額 80万円-40万円=40万円
軽減措置は売上に対する消費税額の20%の税負担ですので、卸売業以外は簡易課税の方が不利になります。
しかし、軽減措置は3年間しか適用を受けることができないので3年経過後は簡易課税の適用について検討が必要になるかもしれません。
適用要件
基準期間における課税売上高が5,000万円以下の事業者が適用対象となります。
基準期間とは次の期間を指します。一般的には2年前であることが多いです。
法人 | 前々事業年度 |
個人事業主 | 前々年 |
届出書の提出が必要
簡易課税の適用を受ける場合は「消費税簡易課税選択届出書」をその事業年度開始の日の前日までに納税地の所轄税務署長に提出する必要があります。
新規開業した事業者については開業した課税期間の末日までが消費税課税事業者選択届出書の提出期限となりますので注意しましょう。
簡易課税の注意点:2年間の継続適用
簡易課税を選択する事業者は2年間継続して適用した後でなければ本則課税に変更することができません。
簡易課税の適用をやめる場合は「消費税簡易課税選択不適用届出書」の提出が必要となることに留意しましょう。
【本則課税】どんなケースなら選ぶべき?
本則課税ってどうやって計算する?
本則課税の計算方法は売上に係る消費税額から仕入に係る消費税額を控除して計算します。
軽減措置や簡易課税と違い実際に支払った消費税額を基に納税額を計算します。
具体的計算例
- 売上高 880万円(消費税 80万円)
- 仕入高 660万円(消費税額 60万円)
納付税額 80万円-60万円=20万円
本則課税を選ぶべきケース
設備投資をする場合は仕入に係る消費税額が大きくなるため本則課税が有利になる場合があります。
仕入に係るとありますが商品仕入れだけに限らず、設備投資や経費などを含めたものとなるので注意しましょう。
また、設備投資の場合は代金を分割で支払うこともあるかもしれませんが、仕入税額控除ができる時期は支払った時点ではなく設備の引き渡しを受けた時点です。代金が未払いであっても仕入税額控除により消費税額を抑えることができます。
高額な設備投資をしたことにより売上に係る消費税額より仕入に係る消費税額が大きい場合は消費税の還付を受けることができます。
軽減措置や簡易課税は還付になることはないため、設備投資をする際は本則課税を適用することを検討してみてはいかがでしょうか?
簡易課税と違い本則課税の適用には届け出などは不要です。なぜなら本則課税が原則的な消費税の計算方法であり、簡易課税は小規模事業者の事務負担を軽減を目的としているからです。
どうするべきか?3年間は軽減措置+本則課税
消費税の課税方法について解説しましたが、免税事業者がインボイス導入に伴い課税事業者となる場合は、本則課税のまま決算時に軽減措置との比較で有利な方で申告納税することをおススメします。(ただし、卸売業を営む事業者を除きます)
軽減措置に比べ簡易課税が有利になるのは卸売業を営む事業者だけです。そのため軽減措置を受けることができる期間中に簡易課税を選択するメリットはありません。
軽減措置を受けることができる期間中に設備投資などをした場合は、申告時に軽減措置と本則課税の有利な方を選択することができます。
それぞれの納税額を計算したうえで有利な計算方法を適用しましょう。
令和5年度税制改正によりインボイスの申請期限も延長
令和5年度の税制改正により軽減措置が導入されるため、免税事業者がインボイス登録をしても税負担が軽減されることとなります。
しかし、軽減措置があるとはいえ税負担が増えることには変わりがないため、免税事業者の方の中にはインボイス登録をするべきか悩んでいる方もいることでしょう。
本来のインボイス登録の申請期限は令和5年3月31日です。しかしやむを得ない理由がある場合は令和5年9月30日までに申請をすれば令和5年10月1日からインボイス登録を受けることができます。
令和5年度税制改正により、このやむを得ない理由についての記載を求めないこととなりました。そのため実務上はインボイス登録の申請期限が令和5年9月30日まで延長されたことになります。
インボイス登録について検討されている方は落ち着いて考えてみましょう。
まとめ
令和5年度税制改正により免税事業者がインボイス制度の導入に伴い課税事業者となる場合の税負担が軽減されることとなりました。
しかしこの措置も3年間と短い期間の適用となります。
軽減措置の適用期間が終わると簡易課税か本則課税のいずれかを選択して消費税の申告納付をしなければいけません。
免税事業者がインボイス登録をする場合は長期的な視点をもって計画性を持つことをおススメします。