この記事の執筆者

税理士 青木征爾 
札幌市を中心に活動
新規創業支援や中小企業の経営支援、相続業務を得意とする

こんにちは。札幌の税理士の青木です。

個人事業を行っている方の中には事業を法人化すること(法人成りといいます)を検討されている人はいませんか?

法人成りをする際に税務上の注意をしなければいけないものが非常に多いです。

その中のひとつに一括償却資産があります。

この記事では法人成りをする際の一括償却資産の取り扱いについて解説します。

この記事が法人成りや起業をお考えの方のお役に立てれば幸いです。

一括償却資産とは

固定資産はその耐用年数に応じて費用処理されます。

たとえば100万円の固定資産で耐用年数10年であれば毎年10万円ずつ経費となります。

しかし、10万円以上20万円未満の固定資産については一括償却資産として処理することができます。

一括償却資産とは耐用年数に関わらず、3年で経費化することができる制度です。

たとえば新品のテレビの耐用年数5年です。15万円のテレビであれば年間3万円が経費となります。(減価償却費を定額法で計算した場合)

しかし、一括償却資産として処理をした場合は3年で経費化するため年間5万円が経費となります。

一括償却資産であれば同じ固定資産であっても早期に費用化することができる場合があります。

一括償却資産は除却損を計上できない

通常の固定資産を廃棄した場合において、まだ経費化されていない金額があるときは、除却損といってその経費化されていない金額を一括して経費にすることができます。

しかし、一括償却資産の場合は経費化されていない金額があるときに廃棄をしても、除却損を計上することはできません。廃棄をした場合であっても引き続き3年間で費用にしなければいけません。

法人成りをした場合の取り扱い

個人事業を法人化することを法人成りといいます。

法人成りをするには個人事業を廃業させなければいけません。

一括償却資産は3年で費用処理するとは先ほど説明した通りです。

では、一括償却資産を取得した翌年に廃業しなければいけない場合はどうすればよいでしょうか?

たとえば18万円のパソコンを購入し、1年目は6万円が経費となり、あと12万円については費用になっていません。2年目に法人成りによる廃業をすることになりました。

この場合、費用になっていない残りの12万円については廃業する年の費用となります。

一括償却資産の取得価額の全額が費用となるので間違えないようにしましょう。

【参考】相続があった場合の取り扱い

法人成り以外であっても廃業する場合があります。

廃業の中でも特殊なものは相続の発生です。

個人事業主が亡くなってしまった場合、一括償却資産をどのように取り扱うのかを確認しましょう。

原則

個人事業主が亡くなると亡くなった日から4か月以内に亡くなった年の所得税について申告をしなければいけません。この申告を準確定申告といいます。

亡くなった個人事業者が保有していた一括償却資産について経費になっていない金額がある場合は、その金額は亡くなった個人事業主の亡くなった日の属する年の経費となります。

法人成りをした場合と同様に一括償却資産の経費になっていない金額(未償却残高)を経費として申告をします。

例外

先ほどの原則的な処理以外にも例外処理(所得税法基本通達49-40の3)を選択することもできます。

亡くなった個人事業主の事業を引き継いだ人がいる場合は、準確定申告において未償却残高の全額を経費にせず、通常通り一括償却資産の取得価額の3分の1を準確定申告における経費とし、残額については引き継いだ人の経費とすることができます。

例えばX1年に15万円の備品を購入し、その後個人事業主が亡くなり、個人事業主の子どもが事業を引き継いだとします。

X1年:個人事業主の準確定申告における経費=5万円
X2年:事業を引き継いだ子どもの経費=5万円
X3年:事業を引き継いだ子どもの経費=5万円

所得税は累進税率といって所得が大きければ大きいほど税率が大きくなります。

そのため、子どもの所得が大きい場合は例外的な処理の方が税負担を抑えることができる場合があります。

法人成りには資産の引き継ぎが必要

一括償却資産に限らず個人事業主が法人成りをする場合は、個人事業で使っていた資産をそのまま使うということはできません。

個人から法人へ資産を売却するか、個人が法人へ賃貸するかの方法で引き継がなければいけません。

※現物出資という方法もありますがあまり一般的ではないので説明を割愛します。

売買の場合の注意点

売買で資産を引き継ぐ場合に注意すべき点は次の3点です。

・個人の確定申告
・売却金額
・耐用年数


それぞれについて確認しましょう。

個人の確定申告

個人事業主が固定資産を売却した場合には確定申告が必要になります。

売却した固定資産の種類によって税金の計算方法が変わります。

土地や建物等の不動産であれば分離課税という方法で所得税を計算します。

分離課税は事業所得や給与所得などの所得と分離して計算します。のちほど説明する総合課税は事業所得や給与所得と合わせて所得税を計算します。

分離課税には長期譲渡所得と短期譲渡職に区分されます。

・長期譲渡所得=売却した年の1月1日において所有期間が5年を超えるもの
・短期譲渡所得=売却した年の1月1日において所有期間が5年を超えないもの

長期譲渡所得も短期譲渡所得も売却金額から取得費と譲渡費用を差し引いたものに税率をかけます。

譲渡所得(分離課税)の計算方法
(売却金額ー取得費ー譲渡費用)×税率


取得費用とはその固定資産の購入金額や購入手数料等のことで、建物については減価償却費を控除します。譲渡費用はその固定資産を売却するために要した仲介手数料や売買契約書の印紙代等が該当します。

なお、取得費がわからない場合や実際の取得費が売却金額の5%未満の場合は売却金額の5%を取得費とすることができます。


不動産を売却した場合の税率

  • 分離長期譲渡:所得税15% 住民税5% 合計20%
  • 分離短期譲渡:所得税30% 住民税9% 合計39%

不動産以外の固定資産を売却した際には総合課税という方法で所得税を計算します。

総合課税も分離課税と同様に長期と短期の区分があります。

分離課税はその年の1月1日時点で所有期間が5年を超えるかで判定を行っていました。

総合課税については保有期間が5年を超えていたら長期、5年以内なら短期となります。

長期と短期では所得金額の計算が異なります。

短期譲渡所得(不動産以外の固定資産)

売却金額ー取得費ー譲渡費用ー50万円(注)

長期譲渡所得(不動産以外の固定資産)

(売却金額ー取得費‐譲渡費用ー50万円(注))×1/2

(注)50万円の控除は短期譲渡所得と長期譲渡所得の合計で50万円となります。短期譲渡所得と長期譲渡所得の両方がある場合は短期譲渡所得から先に控除します。また、譲渡益を超える控除を受けることはできません。

なお、商品などの棚卸資産を引き継ぐ場合の税負担が生じることがあります。
詳しくはこちらの記事をご覧ください。

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売却金額

法人成りに伴い固定資産を売却する際は売却金額に注意が必要です。

時価の1/2未満の金額で譲渡してしまうと「みなし時価譲渡」といって時価で売却したものとして税額計算をしなければいけません。

計算例(不動産を引き継いだ場合)
時価:500
取得費用:100
譲渡費用:50

売却金額=200の場合(時価の1/2未満のため、みなし時価譲渡に該当)
課税所得:500ー100-50=350

売却金額=300の場合(時価の1/2超のため、みなし時価譲渡に該当しない)
課税所得:300-100-50=150

このように、みなし時価譲渡に該当すると課税所得が大きくなり、税負担も増える場合があるので引き継ぐときの金額には注意しましょう。

耐用年数

固定資産は減価償却といって耐用年数にわたって費用処理されます。

減価償却費の計算に重要となるのは耐用年数です。

資産の種類や用途によって法定耐用年数が定められています。

ただし、中古資産については法定耐用年数を使用せず、簡便法という方法で耐用年数を計算します。

法人成りの場合、個人から法人へ固定資産を売却したときは、法人においては中古資産を取得したものとして取り扱います。

中古資産の耐用年数

  • 法定耐用年数の全部を経過した資産
    その法定耐用年数の20%に相当する年数
  • 法定耐用年数の一部を経過した資産
    その法定耐用年数から経過した年数を差し引いた年数に経過年数の20%に相当する年数を加えた年数

これらの年数に1年未満の端数があるときはその端数を切り捨て、その年数が2年に満たない場合は2年とします。

例えば法定耐用年数が6年の資産について使用開始から7年経過した資産については6×20%=1.2→2年未満のため2年となります。

法定耐用年数が10年の資産について使用開始から4年が経過した資産については10-4+4×20%=6.8→6年(端数切捨)となります。

耐用年数が短い方が費用の早期計上ができます。そのため節税になる場合があります。

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賃貸の場合の注意点

固定資産を賃貸する場合は売買の時のように引き継いだ時点での税負担は生じません。

ただし、賃貸による収入については個人が確定申告をしなければいけません。

個人の確定申告においては、賃貸した固定資産の種類によって所得区分が変わります。

土地や建物の場合は不動産所得となります。

不動産所得は青色申告特別控除を受けるかどうかで税負担が変わることがあります。

青色申告特別控除は青色申告の特典で最大65万円の所得控除で次の要件が求められます。

  • 不動産の賃貸が事業的規模である
  • 複式簿記により記帳している
  • 電子帳簿保存または確定申告の期限までに電子申告を行っている

事業的規模を満たすには独立した家屋なら概ね5棟以上、アパートやマンションであれば独立した部屋数が概ね10室以上あることが求められます。この基準を5棟10室基準といいます。

複式簿記という表現はあまり聞きなれないかもしれませんが、一般的な簿記のことです。一般的な会計ソフトで帳簿の作成を行っていればこの要件は満たします。

3つ目の要件について期限内に電子申告をすれば満たせる要件となっています。

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土地や建物以外の固定資産を賃貸する場合は事業所得又は雑所得となります。

事業所得は雑所得に比べ税制面で有利な場合が多いです。

事業所得であれば青色申告をすることができますし、損益通算といって損失が生じた場合に他の所得と相殺することができます。

では事業所得と雑所得を区別する基準はどういったものでしょうか?

実は明確な基準というものがありません。社会通念上事業と呼べる規模であれば事業所得となりますし、そうでなければ雑所得となります。

一括償却資産と少額減価償却資産の相違点

一括償却資産と似ているものに少額減価償却資産があります。

少額減価償却資産とは取得価額30万円未満の減価償却資産については耐用年数に関わらず事業のように供した年の経費にすることができるというものです。

一括償却資産との相違点が多いので確認しましょう。

青色申告

一括償却資産は白色申告でも適用を受けることができます。これに対し少額減価償却資産は青色申告をしないと適用を受けることができません。

金額

一括償却資産は取得価額が10万円以上20万円未満のものです。この金額のものであれば年間何個であっても一括償却資産として処理することができます。

それに対し少額減価償却資産は30万円未満のものが対象で年間300万円を限度としています。

償却資産税

一括償却資産は償却資産税が非課税です。それに対して少額減価償却資産は償却資産税の課税対象です。

少額減価償却資産は貸借対照表に記載されないので償却資産税の申告の際にモレやすいので注意しましょう。

法人成りのメリット

法人成りをする際の手続きや税務処理は手間がかかることが多いです。

しかし、法人成りにはメリットがあります。

個人事業に比べ信用が高いということはもちろんですが、税負担が少なくなることもあります。

個人事業の場合は利益があると全て事業主に課税されていました。

法人成りをすると事業を行っている法人は役員報酬を通じて所得を分散することができます。

法人税と所得税は税率が異なります。そのため所得を分散すると個人事業に比べ低い税率が適用される場合も少なくありません。

また、法人が個人に支給する役員報酬は給与所得として課税されます。給与所得には給与所得控除という控除があり税負担を抑えることができます。

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まとめ

法人成りした場合の一括償却資産の取り扱いについて解説しました。

法人成りは間違えやすい論点が多いです。法人成りをお考えの方で税務について不安がある方は精通した専門家に相談することをおススメします。