この記事の執筆者

税理士 青木征爾 
札幌市を中心に活動
新規創業支援や中小企業の経営支援、相続業務を得意とする

こんにちは。札幌の税理士の青木です。

個人事業主は毎年確定申告を行わなければいけません。

確定申告とはその名の通り、財政状態と経営成績を確定させて申告をしなければいけません。

しかし、前年に取得した減価償却資産について値引きがあった場合はどうすればよいでしょうか?

前年の確定申告をやり直せばよいのでしょうか?

実は、そのような場合であっても確定申告のやり直しは行いません。今年の減価償却資産の簿価を減額するという処理を行います。

この記事では前年以前に取得した減価償却資産について値引きを受けた場合の取り扱いについて解説させていただきます。

減価償却資産の値引きがあった場合の取り扱い

前年に取得した減価償却資産の値引きが行われた場合であっても、既に申告が完了している確定申告をやり直すということはしません。

原則的な処理は値引きのあった金額を、値引きのあった年の事業所得の収入に算入することになります。(所得税法36条)

しかし次の算式により計算した金額の範囲内で固定資産の取得価額及び未償却残高を減額することができるものとされています。(所得税基本通達49-12の2)

値引の額×未償却残高÷取得価額

計算例

減価償却資産の取得日(事業供用日):前年1月15日
購入金額:3,000万円
耐用年数:10年
償却方法:定額法
前年の減価償却費:3,000万円×0.1=300万円
未償却残高:2,700万円

値引き額:100万円

 

取得価額及び未償却残高から減額する金額
100万円×(3,000万円ー300万円)÷3,000万円=90万円

改定後の取得価額:3,000万円ー90万円=2,910万円
改定後の未償却残高:2,700万円ー90万円=2,610万円
今年の減価償却費:2,910万円×0.1=291万円

上記の例では値引き額100万円に対して取得価額及び未償却残高を減額した金額は90万円です。

100万円から90万円を引いた残りの10万円については事業所得の収益となります。

仕訳で表すと次のようになります。
なお、値引きは現金でされたものとします。

現金 100万 / 減価償却資産 90万
       /  雑収入  10万

原則的な取り扱いと減額処理でどれだけ変わるのか

値引きがあった場合に収益に計上するのが原則的な処理、減価償却資産の減額が例外的な処理というのは先ほど説明した通りです。

では、この2つの処理はどれだけ違いを生むのでしょうか?

実はこれらの処理は減価償却資産の耐用年数期間内で経費になる金額は、どちらも2,900万円となります。

どちらの処理であっても経費になる金額が変わるわけではありません。

どんなものが減価償却資産になるの?

ここまで減価償却資産の値下げがあった場合の処理について説明しましたが、減価償却資産とはどのようなものかご存じでしょうか?

減価償却資産とは事業などに用いられる建物、機械装置、器具備品、車両運搬具などのことで時の経過により価値が減少していくものを指します。

ただし、販売用のものや使用可能期間が1年未満のもの、取得価額が10万円未満のものは除かれます。

また、土地や骨とう品のように時の経過により価値が減少しないものは減価償却資産に該当しません。

減価償却資産は取得時に費用となるわけではなく、耐用年数に応じて経過した期間に相当する金額を費用にします。

そのため、減価償却資産は耐用年数が重要となります。

法定耐用年数とは?

減価償却資産はその資産の種類ごとに法定耐用年数が定められています。

なぜなら、もし資産の耐用年数を納税者が一つ一つ見積もるとしたら、同じ資産であっても納税者によって見積もり期間にばらつきが出てしまい課税の公平性を保てなくなるからです。

また、納税者が耐用年数を一つ一つ見積もるというのも非常に手間がかかります。

法定耐用年数はその資産の種類ごとに分かれています。

例えば木造・合成樹脂造の建物を例に確認しましょう。

細目耐用年数
事務所用のもの24年
店舗・住宅用のもの22年
飲食店用のもの20年
旅館用・ホテル用のもの17年
公衆浴場用のもの12年
工場用・倉庫用のもの15年

このようにどのように使っているかで法定耐用年数が異なる場合があります。

減価償却資産の耐用年数は非常に間違えやすいです。

耐用年数を調べる際には慎重に行いましょう。

中古資産は耐用年数が短い

先ほどご説明した法定耐用年数は新品の減価償却資産を取得した場合に用いられるものです。

中古の減価償却資産の場合は使用可能期間を見積もることとなります。

この使用可能期間を見積もることが困難な場合は簡便法という方法により算定した年数を耐用年数とします。

実務上は見積もりではなく、簡便法を用いることが一般的です。

簡便法による耐用年数

・法定耐用年数の全部を経過した資産
その法定耐用年数の20%に相当する年数

・法定耐用年数の一部を経過した資産

その法定耐用年数から経過した年数を差し引いた年数に経過年数の20%に相当する年数を加えた年数

これらの計算により算出した年数に1年未満の端数があるときは、その端数を切り捨てます。
また、その年数が2年に満たない時は2年とします。

計算例
法定耐用年数の全部を経過した資産
木造建物(事務所用のもの)
法定耐用年数:24年
経過年洲:30年
簡便法による耐用年数:24×20%=4.8→4年

法定耐用年数の一部を経過した資産
木造建物(飲食店用のもの)
法定耐用年数:20年
経過年数:10年
簡便法による耐用年数:20-10+10×20%=12年

このように中古資産は耐用年数が短いため早期に費用処理できるという特徴があります。

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一括償却資産は償却資産税の節税に

取得価額が10万円以上20万円未満の減価償却資産については、その資産の耐用年数に関わらず取得価額を3年間にわたり費用にすることができます。

取得価額の3分の1ずつを3年間にわたって費用にすることができます。

このような資産のことを一括償却資産といいます。

一括償却資産には次のような特徴があります。

  • 事前の手続きが不要
  • 限度額なし
  • 月割計算なし
  • 償却資産税の対象外
  • 除却損を計上しない

それぞれについて確認していきましょう。

事前の手続きが不要

一括償却資産の適用を受けるには事前の手続きが不要です。

そのため減価償却資産を取得してから原則的な処理を行うか、一括償却資産として処理をするのかを選ぶことができます。

限度額なし

後述しますが少額減価償却資産の特例は年間300万円という限度額が決まっています。

それに対して一括償却資産は限度額がありません。

要件を満たす減価償却資産であればいくつであっても一括償却資産として取り扱うことができます。

月割計算なし

減価償却資産を年の途中で取得した場合は減価償却費を月割計算しなければいけません。

例えば7月に取得した減価償却資産であれば7-12月の6か月分に相当する減価償却費を計上します。

これに対して一括償却資産は月割計算を行いません。

1月に取得しても12月に取得しても経費に算入する金額は同じです。

償却資産税の対象外

一括償却資産は償却資産税の対象外です。

機械装置や器具備品などの減価償却資産や少額減価償却資産は償却資産税の対象ですが一括償却資産は対象外となります。

除却損を計上しない

一括償却資産は償却途中で除却しても除却損を計上しません。

たとえば18万円で買った器具備品を2年目で除却したとします。

この場合、簿価は12万円の未償却残高がありますが、除却損を計上せずに通常通り一括償却資産として処理をします。

実態と帳簿に乖離が出てしまいますので注意しましょう。

【少額減価償却資産】青色申告なら30万円未満のものは経費に

青色申告を行っている事業者については30万円未満の減価償却資産については取得時に費用処理することができます。

この規定は年間300万円に達するまでの金額が対象となります。

例えば26万円の減価償却資産を12台購入したとします。
26万円×12=312万円

この場合11台までが少額減価償却資産として取り扱うことができます。残りの1台については通常の減価償却資産として取り扱いましょう。

貸付用の資産に注意

令和4年度税制改において少額減価償却資産から貸付け用のものが除かれました。

ただし、リース会社のように貸付事業が主要な事業の場合は改正の対象外となり、従来通り貸付用の資産でも少額減価償却資産の対象となります。

改正の背景として、ドローンなどの少額の資産を大量に購入し、その後の事業年度において貸付や売却を行うことにより課税の繰り延べを行うことが横行したことがあります。

貸付を行う際には少額減価償却資産に該当するかを確認しましょう。
※貸付資産は少額減価償却資産だけでなく一括償却資産、単価10万円未満の減価償却資産にも該当しないこととなりますので注意しましょう。

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まとめ

減価償却資産の値引きがあった場合を中心に、減価償却資産の取り扱いについて解説しました。

減価償却資産については納税者側が処理を選択できる数少ないものです。それが故にミスの多い論点でもあります。

税額への影響も少なくないので慎重に処理を行いましょう。