この記事の執筆者

税理士 青木征爾 
札幌市を中心に活動
新規創業支援や中小企業の経営支援、相続業務を得意とする

こんにちは。札幌の税理士の青木です。

フリーランスや個人事業主の中には節税に関心のある方もいるかと思います。

そのような方の中には中古自動車が節税になるという話を聞いたことはありませんか?

実は中古自動車が節税になるというのは正しくはありません。場合によっては税負担が増えることもあります。

中古自動車は費用の早期計上にはなりますが、なぜ節税になるといわれているかについて解説いたします。

節税になるの根拠=費用の早期計上

自動車を購入した場合、購入時に購入費用が経費になるわけではありません。

購入費用は固定資産に計上し、耐用年数に応じて費用として処理されます。

乗用車を新車で購入した場合の耐用年数は6年です。

中古車の耐用年数は6年ではなく使用可能期間として見積もられる年数によることとされています。
ただし、一般的に使用可能期間を見積もることは困難であり、実務上は簡便法を持ちいることが多いです。

中古車は新車に比べ耐用年数短くなっています。

そのため、新車に比べ早期に費用を計上することができます。

費用の早期計上を指して「節税になる」という表現が見受けられます。
後述しますが費用の早期計上が必ずしも節税となるわけではないのでご注意ください。

中古資産の耐用年数とは

中古資産の耐用年数は実務上は簡便法という方法を用いて計算します。
簡便法による耐用年数は次の通りです。

法定耐用年数の全部を経過した資産
その法定耐用年数の20%に相当する年数

法定耐用年数の一部を経過した資産
その法定耐用年数から経過した年数を差し引いた年数に経過年数の20%に相当する年数を加えた年数

これらの年数に1年未満の端数があるときはその端数を切り捨て、その年数が2年に満たない場合は2年とします。

具体例
法定耐用年数:6年
経過年数:4年
簡便法による耐用年数:6-4+4×20%=2.8→端数切捨てにより2年

簡便法による耐用年数は一番短くても2年となります。
自動車の場合は4年以上型落ちをしていると2年で減価償却費を計上することになり、最も早期に費用計上ができることとなります。

減価償却:個人事業主は定額法

減価償却費の計算は定額法と定率法という方法があります。

フリーランスなどの個人事業主は定額法で計算します。

定額法は取得価額に定額法の償却率を乗じて計算します。

償却率は耐用年数によって異なります。

定額法:償却率

耐用年数定額法償却率
2年0.500
3年0.334
4年0.250
5年0.200
6年0.167
7年0.143

定額法の特徴として償却費が毎年同じになるという点があります。

計算例
取得価額:2,000,000

耐用年数4年の場合:2,000,000×0.250=500,000
耐用年数5年の場合:2,000,000×0.200=400,000

参考:法人は定率法

法人においては定率法という方法で減価償却費を計算します。

定率法は固定資産の所得価額のうちまだ減価償却されていない金額(未償却残高)に定率法の償却率を乗じて計算します。

定率法償却率

耐用年数定額法償却率
2年1.000
3年0.667
4年0.500
5年0.400
6年0.333
7年0.286

定率法は初めの年ほど償却費が多く年とともに減少する特徴があります。

定率法で注目していただきたい点は、耐用年数2年の場合の償却率です。1.000ということは取得価額の全額が1年間で費用処理されます。

早期に費用計上したい場合は耐用年数が2年の固定資産を取得するのが効果的です。

計算例
取得価額:3,000,000
耐用年数:6年

期首簿価償却費期末簿価
1年目3,000,000999,0002,001,000
2年目2,001,000666,3331,334,667
3年目1,334,667444,444890,223

このように定率法の場合は定額法に比べ早期に費用となるという点に特徴があります。

年の途中に購入している場合は月割計上が必要

年の途中に購入している場合は減価償却費を月割りしなければいけません。
ただし1月未満の端数は1月とします。

具体例
取得価額:3,000,000
耐用年数:4年(償却率0.250)
事業供用日:3月15日→10か月(1月未満切上)
減価償却費:3,000,000×0.250×10/12=625,000

注意しなければいけないポイントとしては年の中途に取得した場合は減価償却費を1年分計上できるわけではないという点です。

たとえば耐用年数2年(定額法償却率 0.500)であっても12月に取得した場合は0.500÷12=0.041となり取得価額の4%程度しか経費にすることができません。

仕事とプライベート両方に使っている場合

自動車を仕事とプライベートの両方に使っている場合はあるかと思います。

その場合は、仕事に使用した部分を合理的に按分し必要経費にすることができます。

このような按分を「家事按分」といいます。

家事按分をするためには「事業遂行上必要」であり「必要部分を合理的に按分」することが求められます。

経費にするには業務遂行上必要でなければいけません。たとえばプライベートにしか使っていない自動車を個人事業主が購入したからといって経費にすることはできません。

必要な部分を合理的に按分する場合の按分の方法について明確な決まりはありません。

自動車の場合、距離で按分するのが合理的と言えるでしょう。

例えば減価償却費が¥100,000で1年間の総走行距離が1万キロ、仕事での使用が7千キロ、プライベートが3千キロの場合、経費にできるのは¥100,000×7万÷10万=¥70,000となります。

家事按分についてはこちらに詳しく解説しています。

あわせて読みたい
【確定申告】個人事業主、フリーランス必見 家事按分のやり方

必ずしも節税になるとは限らない

自動車に限らず中古の固定資産は耐用年数が短いため費用を早期計上することができます。

ただし、費用の早期計上が必ずしも節税になるとは限りません。

個人事業主の税額計算において税率は非常に大きな影響があります。

所得税は所得が大きければ税率も大きくなる累進税率を採用しています。

所得税の税率

課税所得金額税率控除額
195万円以下5%0円
195万円超 330万円以下10%97,500円
330万円超 695万円以下20%427,500円
695万円超 900万円以下23%636,000円
900万円超 1,800万円以下33%1,536,000円
1,800万円超 4,000万円以下40%2,796,000円
4,000万円超45%4,796,000円

費用の早期計上が節税になるパターン

前提
固定資産の取得価額:\3,000,000
所得控除は考慮しないものとします。

耐用年数が2年の場合

1年目2年目3年目合計
所得金額4,000,0004,000,0001,000,0009,000,000
減価償却費1,500,0001,500,0003,000,000
課税所得金額2,500,0002,500,0001,000,0006,000,000
所得税152,500152,50050,000355,000

耐用年数が3年の場合

1年目2年目3年目合計
所得金額4,000,0004,000,0001,000,0009,000,000
減価償却費1,000,0001,000,0001,000,0003,000,000
課税所得金額3,000,0003,000,00006,000,000
所得税202,500202,5000405,000

耐用年数が2年の場合、3年間の税負担合計が¥355,000です。
それに対し耐用年数が3年の場合は3年間の税負担合計が¥405,000となり、費用の早期計上が節税となります。

費用の早期計上が節税にならないパターン

先ほどは節税になるパターンを確認しました。
今度は節税にならないパターンを確認しましょう。

耐用年数が2年の場合

1年目2年目3年目合計
所得金額2,000,0002,000,0005,000,0009,000,000
減価償却費1,500,0001,500,0003,000,000
課税所得金額500,000500,0005,000,0006,000,000
所得税25,00025,000572,500622,500

耐用年数が3年の場合

1年目2年目3年目合計
所得金額2,000,0002,000,0005,000,0009,000,000
減価償却費1,000,0001,000,0001,000,0003,000,000
課税所得金額1,000,0001,000,0004,000,0006,000,000
所得税50,00050,000372,500472,500

今回のケースでは耐用年数が2年の場合は3年間の税負担合計が¥622,500に対し、耐用年数3年の場合は3年間合計の税負担が¥472,500と費用の早期計上をしない方が税負担が少ない結果となっています。

所得税は累進税率のため所得が大きい年に経費を計上する方が節税効果が高いといえます。

もちろん将来の所得の予測は難しいものがあるので耐用年数が何年であれば節税効果が高いかは判断ができないことでしょう。

重要な点は耐用年数が短ければ節税になるとは限らないという点です。

減価償却の注意点:事業に使わないと経費にできない

減価償却費は事業に使っていないと経費にすることはできません。

たとえば事業専用の固定資産を購入したとしても減価償却費を計上することができるのは事業に使ってからです。

たとえば固定資産を1月31日に引き渡しを受けた場合であっても、事業に使い始めたのが2月以降であればその年に計上できる減価償却費は1年分ではなく11か月分となりますので注意しましょう。

まとめ

いかがでしたでしょうか?

中古自動車の購入が節税になるというのは不正確な表現です。

正確には早期に費用計上できるが正しいといえます。

そのため取得した年の所得税だけ考えると節税になるとはいえます。しかし、複数年で考えると必ずしも節税になるとは限りません。

所得税は累進税率のため所得が大きい年に経費を計上できると節税につながります。

フリーランスや個人事業主は所得税の特性を理解したうえで節税策を考えるのが効果的と言えます。

減価償却費は間違えやすい論点ではありますので注意しましょう。