この記事の執筆者

税理士 青木征爾 
札幌市を中心に活動
新規創業支援や中小企業の経営支援、相続業務を得意とする

こんにちは。札幌の税理士の青木です。

ビットコインやライトコイン、サンドなど様々な暗号資産(仮想通貨)があります。

フリーランスの方の中にはこのような暗号資産を売却する方もいるかと思います。

今回はフリーランスなどの個人事業主が暗号資産を売却した際の確定申告のやり方について解説いたします。

暗号資産の売却は原則的には雑所得

暗号資産の売却は原則的に雑所得として取り扱います。

売却金額から譲渡原価と必要経費を差し引いたものに対して課税されます。

売却金額ー譲渡原価ー必要経費=課税対象

雑所得の特徴① 総合課税

雑所得は総合課税といって事業所得や給与所得と合計した金額に応じて税率が決まります。

総合課税は累進税率といって所得が大きければ大きいほど税率は高く最高45%の税率となります。

所得税の税率

課税所得金額税率控除額
195万円以下5%0円
195万円超 330万円以下10%97,500円
330万円超 695万円以下20%427,500円
695万円超 900万円以下23%636,000円
900万円超 1,800万円以下33%1,536,000円
1,800万円超 4,000万円以下40%2,796,000円
4,000万円超45%4,796,000円

雑所得の特徴② 損益通算できない

事業所得や不動産所得の場合、赤字になった時はその損失を他の所得と相殺することができます。

しかし雑所得の場合は損失を他の所得と相殺することができません。

雑所得の特徴③ 税額控除が使えない

中小企業者が一定の設備投資を行った際に中小企業経営強化税制などの税額控除の適用を受けることができます。

ただし、この規定は青色申告を行っていることが要件となっています。

雑所得の場合は青色申告ではありませんので、このような税額控除を受けることができないことになっています。

事業所得とは取り扱いが異なるので注意しましょう。

収入を認識するタイミングとは

収入を認識するタイミングは暗号資産を売却した日となります。

たとえ暗号資産の取引口座から現金を引き出さなかったとしても収入として認識しなければいけないので勘違いしないようにしましょう。

譲渡原価とは?総平均法、移動平均法

暗号資産の売却にかかる税金計算をするには譲渡原価を計算しなければいけません。

購入した暗号資産を一度に全部売却するのであれば、購入金額が譲渡原価となるため計算は難しくありません。

もし複数回にわたって購入と売却を繰り返す場合は、総平均法又は移動平均法で計算しなければいけません。

総平均法
総平均法とは年の初めに保有している暗号資産の取得価額の総額とその年中に取得した暗号資産の取得価額の総額を合計し、暗号資産の総数で割ることにより原価を計算する方法です。

具体例
3月 4BTCを5百万円で購入
4月 6BTCを4百万円で購入
5月 3BTCを6百万円で売却
6月 2BTCを3百万円で購入

(5百万+4百万+3百万)÷(4+6+2)=100万円

総平均法による1BTCあたりの譲渡原価は100万円となり、3BTCの譲渡原価は300万円となります。

年末に保有している暗号資産9BTCの評価額は900万円です。

移動平均法
移動平均法とは暗号資産を取得する都度、その時点で保有している暗号資産の簿価の総額をその時点で保有している暗号資産の数量で除して計算する方法です。

具体例
3月 4BTCを5百万円で購入
4月 6BTCを4百万円で購入
5月 3BTCを6百万円で売却
6月 2BTCを3百万円で購入

5月売却時点の原価
(5百万+4百万)÷(4+6)=90万円
90万円×3=270万円

移動平均法による1BTCあたりの譲渡原価は90万円となり、3BTCの譲渡原価は270万円です.

年末に保有している9BTCの評価は(90万円×7+300万円)930万円です。

総平均法は原価計算が簡便であるという特徴がありますが、翌年にならないと原価計算ができない点や、経済的な実態と乖離しているという問題点があります。

移動平均法は経済的実態を表しているといえますが都度計算が必要になるため手間がかかるという特徴があります。

手続
総平均法を用いるのか移動平均法を用いるのかは納税者の選択となります。

選択をする場合は税務署に「所得税の暗号資産の評価方法の届出書」を暗号資産を取得した年分の確定申告期限までに提出しなければいけません。

これらの選択は暗号資産ごとに選ぶことができビットコインは総平均法、ライトコインは移動平均法のように異なる評価をすることができます。

一度選択した方法は3年間継続適用しなければなりません。

また、この届出書の提出が無い場合は総平均法で評価することになっています。

必要経費

暗号資産を売買する際に支払った手数料やインターネットの回線使用料、セミナー受講料や書籍の購入費用など暗号資産の売買に支払ったものについては必要経費に算入することができます。

ただし電気代や回線使用料などプライベートにも使っているものについては合理的に按分をしなければ経費に算入することができない点に注意しましょう。

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事業規模なら事業所得

暗号資産の売買は雑所得というのは先ほど説明した通りです。

ただし、事業規模で売買を行っている場合は事業所得となります。

では、「事業」の定義とはいったい何なのでしょうか?

実は何を持って事業とするかの明確な定義はありません。

社会通念上事業と称するものであれば事業となります。

社会通念上の事業とは次のような観点から判断します。

・営利性・有償性があるか
・継続・反復していとなんでいるか
・自己の危険と計算における企画遂行性の有無
・その取引に費やした精神的あるいは肉体的労力の程度
・人的・物的設備があるか
・その取引の目的
・その者の職歴・社会的地位・生活状況
 など

このように様々な観点から判断することとなります。

なお、事業所得と雑所得の判定について所得税基本通達の改正が行われており、その所得に係る取引を記録した帳簿書類の保存が無い場合(その所得に係る収入金額が300万円を超え、かつ事業所得と認めれれる事実がある場合を除く)には業務に係る雑所得とすることとなっています。

所得区分の判定の際にはご参考にしてください。

収入金額記帳、帳簿書類の保存あり記帳、帳簿書類の保存なし
300万円超概ね事業所得概ね業務に係る雑所得
300万円以下概ね事業所得業務に係る雑所得

ただし次の場合には事業と認められるかは個別に判断することとなります。

①その所得の収入金額が僅少と認められる場合
②その所得を得る活動に営利性が認められない場合

こんな時は確定申告が必要?

交換

暗号資産を交換した場合は確定申告が必要になる場合があります。

例えば1万リップルを80万円で購入したとします。

1万リップルで1万2千モナコインを取得したとします。
(レートは1モナコイン=70円)

この場合は取得した暗号資産の価値をもって収入金額とします。

収入金額:70×1万2千=84万円
譲渡原価:80×1万=80万円
所得金額:84万円ー80万円=4万円
※手数料などは考慮にいれてません

決済

決済をした場合も確定申告が必要になる場合があります。

大手家電量販店などでは暗号資産で決済できる場合があります。

例えば1BTCを1,000,000円で購入したとします。
その後0.1BTCを使って110,000円の家電を購入したとします。
(家電購入時のBTCの時価は1BTC=1,500,000円)

この場合の収入金額はいくらになるでしょうか?

答えは家電の購入金額110,000円です。

家電購入時の時価は収入金額とはなりません。

なぜなら経済的価値が流入した金額は家電の代金110,000円だからです。

購入

年の途中に1BTCを100万円で購入しました。

12月31日の1BTCの時価は200万円です。

この場合は確定申告が必要となるでしょうか?

答えは確定申告は不要です。

ただし、後述しますが法人が期末に保有している暗号資産の時価が上昇している場合は課税対象となります。

個人と法人では取り扱いが異なりますので注意が必要です。

会社員は20万円以下なら確定申告不要

会社員の場合(給与を1か所からのみもらっていて年末調整をしている方)については年間20万円以下の雑所得については確定申告が不要です。

ただし、医療費控除などを受けるために確定申告をする場合は20万円以下の雑所得でも確定申告に含めなければいけません。

利益が大きい場合はどうすればいい?

雑所得は他の所得との損益通算ができないことは先ほどご説明した通りです。

しかし、雑所得同士であれば損益を合算することができます。

例えば副業で損失が出ている場合は暗号資産の利益と通算することができます。

暗号資産と消費税

暗号資産を決済の手段として使った場合、暗号資産を譲渡したことになります。

暗号資産の譲渡は支払手段の譲渡に該当し消費税の非課税取引となります。

暗号資産の貸付けはレンディングといって課税取引となります。

暗号資産だからといって全ての取引が非課税になるわけではないので注意しましょう。

法人との違い

個人と法人で暗号資産の取り扱いの違いは2点あります。

ひとつ目は期末の時価評価です。

個人の場合は保有している暗号資産が値上がりしてもそれだけでは課税されません。

しかし、法人の場合は決算時に時価評価を行います。

そのため含み益に対しても課税されることになります。

ふたつ目は譲渡原価の評価方法の違いです。

先ほど説明した通り、評価方法は総平均法と移動平均法があります。

評価方法を選択しなかった場合、個人は総平均法、法人は移動平均法で計算することになります。

暗号資産をもらった場合の税金

暗号資産をもらった場合は贈与税の対象となります。

対象となる金額は贈与時の時価によります。

例えば5BTCの贈与を受けてその時点における時価が1BTC=100万円だった場合、500万円が贈与税の対象となります。

贈与税の課税方式は暦年課税相続時精算課税の2種類があります。

暦年課税

暦年課税とは年間の贈与額から基礎控除という非課税枠の110万円を控除した金額に税率をかけます。

税率は一般税率と特例税率があります。

特例税率はその年の1月1日において18歳以上の方がその方の父母や祖父母から贈与を受けた場合に適用される税率です。

一般税率

基礎控除後の課税価格税率控除額
200万円以下10%0円
400万円以下15%10万円
600万円以下20%30万円
1,000万円以下30%90万円
1,500万円以下40%190万円
3,000万円以下45%265万円
4,500万円以下50%415万円
4,500万円超55%640万円

具体例
贈与金額:500万円
(500万円ー110万円)×15%ー10万円=48.5万円

一般税率は特例税率を用いない場合に適用される税率です。

特例税率

基礎控除後の課税価格税率控除額
200万円以下10%0円
300万円以下15%10万円
400万円以下20%25万円
600万円以下30%65万円
1,000万円以下40%125万円
1,500万円以下45%175万円
3,000万円以下50%250万円
3,000万円超55%400万円

具体例
贈与金額:500万円
(500万円ー110万円)×20%ー25万円=53万円

兄弟間や夫婦館などの場合に適用されます。

相続時精算課税

相続時精算課税はその年の1月1日において60歳以上の父母や祖父母から18歳以上の子や孫への贈与を対象とし、この制度を選択する場合は相続時精算課税選択届出書を提出しなければいけません。

相続時精算課税は2,500万円までの財産については贈与税の非課税となっています。

2,500万円を超える部分については一律20%の税率となっています。

ただし、贈与者が亡くなった場合は相続税の対象となります。

また、令和6年以降の贈与については暦年課税と同様に年間110万円までの基礎控除が認められるようになります。

まとめ

いかがでしたでしょうか。

暗号資産の確定申告のポイントは次の通りです。

・所得区分
・収入金額の計算
・譲渡原価の計算

所得区分については雑所得か事業所得かで課税関係が変わります。

収入金額については売買であればあまり間違えないかと思いますが、決済の場合は決済代金が収入金額となりますので間違えないようにしましょう。

譲渡原価については総平均法か移動平均法かを選ぶことができます。