この記事の執筆者
税理士 青木征爾
札幌市を中心に活動
新規創業支援や中小企業の経営支援、相続業務を得意とする
こんにちは。札幌の税理士の青木です。
個人事業主やフリーランスの方が確定申告をする際、どのような支出が経費になるのか判断がむずかしいということはありませんか?
この記事では経費とはどのようなものなのか、仕事とプライベートで使っているものの取り扱い、どうすれば確定申告で税負担を抑えることができるかについて解説させていただきます。
必要経費の基本的な考え方
必要経費とはどのようなものを指すのか正しく説明することができる人はあまりいないのではないでしょうか?
必要経費とは次のようなものをいいます。
- 総収入金額に対応する売上原価、その他総収入金額を得るために直接要した費用
- その年に生じた販売費、一般管理費、その他業務上の費用
すごく簡単に説明すると事業に関係のある支出ということです。
経費計上の時期とは
必要経費となる金額はその年において債務の確定した金額です。
債務の確定には次の3つの要件を満たす必要があります。
- その年の12月31日までに債務が成立していること
- その年の12月31日までにその債務に基づいて具体的な給付をすべき原因となる事実が発生していること
- その年の12月31日までに金額が合理的に算定できること
このように表現するとすごく難しく感じてしまいますよね。
実は経費の中には支払ったタイミングでは経費にならないものもあります。
ではどのようなケースで必要経費に算入する時期を間違えてしまうかを確認しましょう。
代金を先払いしているケース
たとえば消耗品を購入する場合において代金を先に支払い、その後で消耗品の引き渡しを受けたとします。
この場合、経費に算入する時期は引き渡し時となります。
代金を支払った時点では経費とはなりません。
代金を後払いしているケース
先ほどのケースとは逆のパターンで考えてみましょう。
消耗品の引き渡しを受けた後で代金を支払っている場合であっても、経費に算入する時期は引き渡し時となります。
いずれの場合であっても代金の支払い時と経費の算入時期が異なる場合があることに注意しましょう。
経費にできるもの一覧
仕入金額
小売業など商品の仕入がある業種は仕入金額が経費になります。
仕入金額は売上原価となり売上と対応する部分だけが経費となります。
例えば100万円仕入をしても、60万円分しか売れなかった場合は売れ残った40万円については経費とはなりません。棚卸資産として資産に計上しなければいけません。
そのため在庫をもっている個人事業主は12月31日に棚卸をしなければいけません。
租税公課
事業税や印紙税などの税金は経費に算入することができます。
ただし固定資産税や自動車税などについては事業に利用している部分に限って経費になりますので注意をしましょう。
消費税については税込経理を行っている場合に限り経費となります
荷造運賃
荷物の運賃や梱包費用など、商品の配送や梱包資材の代金については荷造運賃として経費にすることができます。
水道光熱費
電気料金、ガス料金、水道料金などで事務所や店舗で使っているものについては経費になります。
旅費交通費
公共交通機関の交通費やコインパーキングの料金、出張先でのホテル代などが該当します。
経費に算入するには仕事で使ったものなのかプライベートで使ったものなのかがわかるように記録を残す必要があります。
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通信費
郵便、電話、インターネットの回線使用料等を支払った場合は経費となります。
広告宣伝費
カタログやポスターの作成費用、WEB媒体や雑誌などへの広告掲載料などが当てはまります。
接待交際費
取引先への接待や贈答費用などが該当します。
ただし、プライベートで使ったものか事業として使ったものかは区別がつきにくいので飲食代の場合は誰と何のため利用したのか、贈答品については誰に贈ったのかの記録を残しておきましょう。
損害保険料
事務所の火災保険料や事業用の車両の自動車保険など、事業に関わる保険料は経費となります。
消耗品費
文房具や、コピー用紙、10万円未満の家電など消耗品に該当するものは幅広いです。
利子割引料
事業用の借入に係る利息は経費になります。
ただし、借入金の元金は経費とならないことに注意しましょう。
これは経費になりません
罰金
交通違反などで罰金を支払う場面はあるかもしれません。
このような罰金は社会的な罰則の意味があるため経費とはなりません。
たとえ仕事の最中に交通違反をしたとしても経費とはなりません。
帳簿における処理は「事業主貸」とし損益に影響させないようにしましょう。
家族への給与
個人事業主が生計を一にする親族に対して支払った給料は原則として経費に算入することができません。
ここでポイントとなるのは「生計を一にする」という文言です。
生計を一にするとは、平たく言うと同じ財布で生活をしているということです。
そのため、別生計の家族であれば支払った給料を経費にすることができます。
「生計一親族に給与として支払うのがダメなら外注費として支払えば経費になるのでは?」そのようにお考えになる方もいるかもしれません。
たとえ外注費として支払っても経費にすることはできません。
なぜなら生計一親族への対価の支払いについて経費にできないと所得税法56条に規定されているからです。
給与であっても外注費であっても対価であることには変わりはないので生計一親族への給与や外注費は経費にすることはできません。
社会保険
個人事業主に対する国民健康保険や国民年金などの社会保険については経費にはなりません。
ただし、所得控除の対象となるため税負担を抑える効果があります。
では、個人事業主が支払った従業員に対する社会保険については経費になるでしょうか?
答えは経費になります。
社会保険であっても事業主と従業員で取り扱いが異なる点に注意しましょう。
寄付金
個人事業主が支払った寄付金については経費になりません。
社会保険と同様に所得控除の対象です。
支払った寄付金を会計帳簿に反映させる場合は「事業主貸」で処理をしましょう。
10万円以上の固定資産
取得価額が10万円以上かつ使用可能期間が1年以上の備品などを購入した場合はその購入金額については経費となりません。
その購入金額は固定資産に計上し減価償却を通じて費用処理されます。
減価償却とは固定資産を耐用年数にわたり費用とする手続きで、資産の種類ごとに耐用年数が異なります。
代表的な法定耐用年数
- 自動車 6年
- パソコン 4年
- テレビ 5年
- 接客業用の応接セット 5年
- 冷蔵庫 6年
減価償却には定額法と定率法という方法があります。
個人事業主の場合は通常定額法を使用します。
定額法とは取得価額に耐用年数に応じた償却率を乗ずる方法です。
例えば200万円の自動車を購入した場合の償却額を計算してみましょう。
・取得金額 200万円
・耐用年数 6年=償却率0.167
200万円×0.167=33万4千円
このように200万円のうち33万4千円ずつ経費に算入することより、法定耐用年数である6年にわたって経費となります。
仕事とプライベート両方に使っているものの取り扱い
事業と関わりのない支出は経費にならないというのは先ほどご説明した通りです。
では自動車のように仕事でもプライベートでも使っているものの取り扱いはどうすればよいでしょうか?
仕事でもプライベートでも使っているものについては業務遂行上必要であり、必要である部分を明らかに区分することができる場合は事業に使っている割合に応じて経費にすることができます。
ここで重要な点はどのように区分をするかということです。
この区分の方法はその支出に応じて合理的で適切なものにしなければいけません。
例えば自動車であれば走行距離に基づき按分することが合理的と言えますし、自宅の一部を事務所として使っている場合は面積で按分することが合理的と言えます。
その支出に対して合理的な方法で区分ができるのであれば方法に決まりはありません。時間や日数、面積などさまざまな方法で区分することができます。
注意していただきたいポイントとしては必要部分を明らかに区分できない場合は経費にできないということです。
たとえば自宅を事務所に使っている例で考えてみましょう。
自宅の1室を事務所として使っている場合は仕事とプライベートを面積で区分することはできます。
しかし、リビングなどで仕事を行っている場合は仕事とプライベートを区分することが難しいです。
(リビングの中でパーテーションなどで仕事の空間を仕切っているのなら別ですが)
このように区分ができない場合は経費に算入できません。
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支出を証明する書類が必要
経費に算入するには支出を証明する書類が必要です。
一般的には領収書が支出を証明するものになりますが、振込用紙などでも問題ありません。
第三者が見ても支出を証明することができる資料の保存は必要です。
領収書が無い場合は出金伝票を
公共交通機関の運賃などは領収書の発行がないものもあります。
その場合は次の内容を記載した出金伝票を作成しましょう。
- 日付
- 支払先
- 勘定科目:旅費交通費、接待交際費など
- 摘要:取引の内容「XX社と〇〇の件で打合せ」「JR△△駅から〇〇駅まで」など
- 支払金額
当然ではありますが出金伝票は領収書に比べ信用性に劣ります。
そのため内容については必ず書くようにしましょう。
家族への給与を経費にする方法
家族への給与は経費にならなしと先ほどご説明いたしました。
しかし、家族への給与であっても経費にする方法があります。
それは「青色事業専従者給与」です。
それでは、青色事業専従者給与の要件を確認しましょう。
青色事業専従者の要件
- 青色申告者と生計を一にする配偶者その他の親族である
- その年の12月31日現在で年齢が15歳以上であること
- その年を通じて6月を超える期間、その青色申告者の営む事業に専ら従事していること
この要件で最も注意が必要なのは3つ目の要件です。
専ら従事とあるため他に仕事をしている場合などは該当しません。
本業の合間に事業を手伝っている場合などは専従者とはなりません。
青色事業専従者給与の注意点
青色事業専従者給与は「青色専従者給与に関する届出書」を給与を経費に算入しようとするの3月15日までに納税地の所轄税務署長に提出しなければいけません。
この届出書には給与の金額や支給時期などを記載する必要があります。そのため届出書に記載されてる金額の範囲内で給与を支払わなければいけません。
また、青色専従者として給与の支払いを受ける場合は、配偶者控除または扶養控除の対象とならないことに注意しましょう。
フリーランス、個人事業主は青色申告一択
青色事業専従者給与以外にも青色申告のメリットはあります。
代表的なものは次の3点です。それぞれについて確認しましょう。
青色申告のメリット
- 青色申告特別控除
- 3年間の赤字の繰越
- 少額減価償却資産
青色申告特別控除
青色申告特別控除は最大65万円の所得控除を受けることができます。
65万円の控除を受けるには複式簿記により記帳を行い、期限内申告を行い、電子帳簿保存又は電子申告を行う必要があります。
複式簿記というと難しそうに聞こえますが一般的な会計ソフトで帳簿作成を行うと複式簿記で記帳となります。
期限内申告とは3月15日までに申告をすることです。
電子申告は最近では一般的になりつつあります。
これらを加味すると65万円控除のハードルはそれほど高くないように感じます。
3年間の赤字の繰越
青色申告を行うと赤字があった場合、その金額を3年間繰り越すことができます。
損失があった年の翌年以降の利益と相殺することができるので税負担を抑えることができます。
少額減価償却資産
取得価額が10万円以上の備品などは固定資産に計上しなければいけません。
しかし青色申告をしていると取得価額30万円未満の固定資産については年間300万円を限度に経費にすることができます。
固定資産として計上する場合に比べ早期に費用処理ができるため税負担が少なくなる場合があります。
このように青色申告はメリットが多いので個人事業主の確定申告は青色申告の一択です。
まとめ
個人事業主の経費は事業に関係あるものだけです。
しかし、仕事とプライベートの両方に使っているものについては按分することにより経費にすることができます。
これで個人事業主はどのような支出を経費にしてよいのか判断できるかと思います。
経費をもれなく計上し、青色申告をすることで個人事業主の確定申告における税負担を抑えることができるはずです。