この記事の執筆者
税理士 青木征爾
札幌市を中心に活動
新規創業支援や中小企業の経営支援、相続業務を得意とする
こんにちは。札幌の税理士の青木です。
フリーランスや個人事業の方の中には確定申告に頭を悩ませる方もいるかもしれません。
確定申告といえば青色申告が有利ということは知っているけれどもどのようなメリットがあるのかよくわからないという疑問をお持ちではないでしょうか?
今回は青色申告のメリットについてご説明させていただきます。
青色申告のメリット
65万円控除
青色申告をすると様々な特典があります。
そのひとつに所得金額から65万円を控除するというものがあります。
65万円の控除をうけるには次の要件を満たさなければいけません。
- 不動産所得または事業所得が生ずる事業を営んでいる
- 複式簿記により会計帳簿を作成している
- 貸借対照表、損益計算書を作成し期限内に申告をする
- 会計帳簿について電子帳簿保存を行っているまたは電子申告により確定申告を行っている
通常の場合フリーランスや個人事業主は事業所得があるかと思います。そのため一つ目の要件は満たすことでしょう。
二つ目の複式簿記とはいわゆる簿記のことです。一般的な会計ソフトで帳簿の作成をすれば要件は満たせます。
三つ目の要件については、貸借対照表、損益計算書は一般的な会計ソフトで会計帳簿を作成すれば問題ありません。会計帳簿の作成とは言い換えるのであれば貸借対照表と損益計算書を作成することとも言えます。
ここで重要なことは期限内に申告するという点です。確定申告の申告期限とはその年の翌年3月15日です。
たとえば令和4年分の申告をするのであれば令和5年3月15日が申告期限となります。
四つ目の要件は電子帳簿保存または電子申告とありますが、電子申告の方がハードルが低いと言えます。
近年では会計ソフト、税務ソフトの発達により電子申告は一般的になってきています。
それに対し電子帳簿保存は電子データの備え付け及び保存を行い一定の事項を記載した届出書の提出が求められます。
では65万円の控除を受けるとどのくらい税負担が変わるのかを確認しましょう。
所得税の税率は累進税率といって所得金額が大きければ税率も大きくなります。
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
1,949,000円まで | 5% | 0円 |
3,299,000円まで | 10% | 97,500円 |
6,949,000円まで | 20% | 427,500円 |
8,999,000円まで | 23% | 636,000円 |
17,999,000円まで | 33% | 1,536,000円 |
39,999,000円まで | 40% | 2,796,000円 |
40,000,000円以上 | 45% | 4,796,000円 |
課税される所得金額とは売上から経費を引いた金額から扶養控除等の所得控除を控除した金額です。
例えば課税される所得金額が500万円の場合、500万×20%-427,500=¥572,500となります。
(復興特別所得税は加味していません)
課税所得500万円のケースで65万円の控除をうけると税負担は次のようになります。
(500万ー65万)×20%-427,500=¥442,500
65万円控除を受けない場合との差額は572,500-442,500=130,000となります。
税率により差額は変わりますが、税負担への影響が大きいことがわかります。
30万円未満の固定資産が経費になる
10万円以上の固定資産を購入した場合は、購入時に全額が費用処理されるわけではありません。
その固定資産の耐用年数に応じて費用処理されます。
たとえば自動車であれば6年、パソコンであれば4年など決まった年数で償却します。
青色申告をすると30万円未満の固定資産については年間300万円に達するまでは購入時で費用処理することができます。
この制度を少額減価償却資産の特例といい適用を受けるには確定申告書に少額減価償却資産の取得価額に関する明細書の添付が求められます。
この特例をうけると費用の早期計上が可能となります。
ここで注意をしていただきたいことは費用の早期計上=節税とは必ずしも言えないということです。
費用になることを節税になるという表現をする方もいますが、少額減価償却資産であっても通常の減価償却資産であっても経費に算入される金額は変わりません。
たとえば次のケースでは少額減価償却資産の特例を使うほうが税負担が増えます。
(所得控除などは考慮せずに試算しています)
少額減価償却資産の特例をつかう場合
前提:単価25万円の固定資産4点を購入(耐用年数4年)
・1年目
利益金額 100万円
少額減価償却資産 100万円
課税所得金額 100万円ー100万円=0円
所得税 0円
・2年目
利益金額 1,000万円
課税所得金額 1,000万円
所得税 1,000万円×33%-1,536,000=1,764,000
・1年目+2年目
¥1,764,000
少額減価償却資産の特例をつかわない場合
前提:単価25万円の固定資産4点を購入(耐用年数4年)
・1年目
利益金額 100万円
減価償却費 25万円 (取得価額25万円×4 耐用年数4年)
課税所得金額 100万円ー25万円=75万円
所得税 75万円×5%=37,500
・2年目
利益金額 1,000万円
減価償却費 25万円 (取得価額25万円×4 耐用年数4年)
課税所得金額 1,000万円ー25万円=975万円
所得税 975万円×33%-1,536,000=1,681,500
・1年目+2年目
¥1,719,000
少額減価償却資産の特例を使うほうが2年間の税負担合計は増えることとなります。
これは所得税が累進税率という性質があるからです。
利益が大きい年の節税策は税負担を大きく減らす効果がありますが、利益が少ない年は節税策の効果があまり発揮されません。
少額減価償却資産の特例は費用の早期計上にはなりますが、本当に節税になるのかを検討の上適用することをおすすめします。
赤字の繰越
青色申告をすると赤字を3年間繰り越すことができます。
繰り越した赤字は翌年以降の利益と相殺し、税負担を軽減することができます。
例えば1年目は200万円の赤字、2年目は400万円の黒字であったケースで比較してみましょう。
赤字の繰越をした場合
・1年目
赤字 200万円
所得税 0円
・2年目
黒字 400万円
繰越赤字 200万円
課税される金額 400万円―200万円=200万円
所得税 ¥102,500
赤字の繰越をしなかった場合
・1年目
赤字 200万円
所得税 0円
・2年目
黒字 400万円
所得税 ¥372,500
このように赤字の繰越ができると税負担を減らせることになります。
家族への給料を経費にすることができる
家族への給与は原則として経費にすることができません。
ただし一定の要件を満たした青色申告の場合は家族への給料を経費にすることができます。
一定の要件とは次の全ての要件を満たす必要があります。
青色専従者給与の要件
- 青色申告者と生計を一(同じ財布で生活する)にする妻や夫などの配偶者その他の親族である
- その年の12月31日で年齢が15歳以上である
- その年を通じて6か月を超える期間、その青色申告者の営む事業に専ら従事していること
- 「青色事業専従者給与に関する届出書」を納税地の所轄税務署長に提出していること
- 届け出に記載されている方法により支払われ、かつその金額の範囲内で支払われているもの
- 青色事業者専従者給与の額は労務の対価として相当であると認められる金額であること
このように求められる要件は非常に多いです。
注意をしていただきたい点は「専ら従事に従事」とあるように事業に専念していないといけません。
他に仕事があってその合間に手伝っている場合などは該当しません。
また、青色専従者給与は実際に支払わないと経費にすることができません。
そのため、給与を支払う場合は記録が残りやすい給与振り込みとすることが望ましいでしょう。
家族への給料を経費にできるため青色専従者給与は節税メリットが大きいですが、1点だけデメリットがあります。
それは青色専従者給与をもらった人は配偶者控除や扶養控除の対象とはならなくなるという点です。
たとえば夫が事業を行い、妻に専従者給与を支払っている場合は、支払った給与は経費となりますが妻を配偶者控除の対象にすることはできなくなります。
家族への給料を経費にする方法についてはこちらで詳しく解説しています。
青色申告を受けるための手続きとは
青色申告を受けようとする場合は「青色申告承認申請書」を申告しようとする年の3月15日までに納税地の所轄税務署長に提出しなければいけません。
「申告しようとする年」についての間違いが非常に多いので注意しましょう。
たとえば令和5年3月に期限内申告をしたい場合は青色申告承認申請書は令和4年3月15日までに提出しなければいけません。
令和5年3月に申告するのは令和4年分の所得税について申告をします。
青色申告承認申請書の提出期限は「申告をしようとする年」=申告の対象となる年の3月15日です。
後出しができないことに留意しましょう。
なお、1月16日以後に事業を開始した場合の提出期限は事業を開始した日から2月以内となります。
複式簿記=会計帳簿の作成の手間は本当にデメリット?
会計帳簿の作成が手間だから白色申告にしているという話をたまに耳にします。
会計帳簿の作成は本当に手間がかかるのでしょうか?
クラウド会計などの会計ソフトは発達していますし、会計帳簿を作成すればご自身の事業の財政状態、経営成績も把握ができることでしょう。
青色申告を受けられるという点以外にも会計帳簿の作成にはメリットがあります。
会計帳簿の作成を楽にするコツ
それでは会計帳簿の作成を楽にするコツをお伝えします。
①クラウド会計を使う
②経費はクレジットカードで支払う
③現金を使わない
クラウド会計を使うメリットはデータ連携です。
ネットバンキングやIT系のサービスと連携することにより会計帳簿の入力を減らせるうえ、残高も合わせることができます。
クレジットカードで支払うというのも経費の履歴を残すことができるので入力の手間を減らすことができます。
また、現金を使わないというのはデータ連携ができないというだけでなく、月末時点の残高を把握しにくいという点から現金を使わないことをおすすめします。
まとめ
青色申告のメリットについてご理解いただけたでしょうか?
①65万円控除
②少額減価償却資産
③赤字の繰越
④青色専従者給与
これだけのメリットがあります。フリーランスや個人事業主が確定申告をする場合は青色申告の一択と言えます。
青色申告も青色専従者給与も要件と手続きがあるので失念しないようにしましょう。