こんにちは。札幌の税理士の青木です。
年末が近づいてきましたが、年が明けると確定申告をしなければいけないと不安に感じるフリーランスの方もいるかもしれません。
フリーランスの方から「赤字なら確定申告しなくてよいですよね?」そのような質問を受けることがしばしばあります。
しかし、赤字であってもフリーランスは確定申告をするべきです。
今回は赤字のフリーランスがなぜ確定申告をするべきなのかということについて解説します。
この記事を読んで確定申告に対する理解が少しでも深まれば幸いです。
結論:赤字でもフリーランスは確定申告が必要
フリーランスが赤字であっても申告が必要な理由はいくつかあります。
それぞれについて解説していきます。
源泉の還付
赤字であっても申告をすれば報酬から控除されていた源泉徴収税額が還付されます。
ライターやデザイナーなどは原稿料や講演料、デザイン料から源泉徴収されています。経営コンサルや外交員なども同様に報酬から源泉徴収されています。
確定申告をすると源泉徴収された税額は、所得税から控除することができます。赤字の場合は所得税が発生しないので源泉徴収税額については還付されることになります。
もちろん源泉徴収されない業種の方もいるのですべてのフリーランスに該当する話ではありません。
所得証明
市町村などの地方自治体が発行する所得証明書は確定申告を基に計算されています。
そのためフリーランスが確定申告をしていない場合は所得証明が発行できません。
自動車を購入するためのローンを組む際や住宅を借りるときに所得証明が求められるケースはあります。確定申告をしていないために所得を証明する方法がないということにならないように赤字であっても確定申告を行いましょう。
別の言い方をすればフリーランスにとって確定申告は社会的信用とも言えます。
国民健康保険料の算定
国民健康保険料は総所得金額等を基に計算しています。
そのため確定申告をしていないと保険料の計算を正しく行うことができません。
所得が一定基準以下の場合は保険料均等割額の減額や高額療養費の支給、入院時食事療養費の減額など優遇措置がありますが、これらを受けることができなくなる場合があります。
確定申告を行っていなかったがために自己負担が増えるということにならないように注意しましょう。
フリーランスは青色申告一択
フリーランスが確定申告をするなら青色申告一択です。
青色申告のメリットはいくつかあります。それぞれについて確認していきましょう。
純損失の繰越・繰戻還付
青色申告をすると赤字を翌年以降3年間繰り越すことができます。
たとえば去年は30万円の赤字であった場合に、今年は40万円の黒字であった時は40万円から30万円を控除して10万円に対して課税がされます。
また、前年が黒字であって今年が赤字の場合は赤字を前年に繰戻して所得税の還付を受けることができます。
毎年安定した利益をあげれるフリーランスばかりではないかと思いますので積極的に活用していきたい制度です。
青色申告特別控除 電子申告なら65万円
フリーランスが青色申告をする際に次の要件を満たしている場合は所得から65万円の控除が認められます。
(※)電子申告をしていない場合で他の要件を満たしているときは55万円の控除となります。
- 複式簿記で会計帳簿を作成していること
- 確定申告書に貸借対照表、損益計算書を添付していること
- 法定期限内に申告していること
- 電子申告をしていること(※)
これらの要件で複式簿記というのがなじみが薄い方もいるかもしれません。
複式簿記とは一般的な簿記のことで難しいものではありません。
もし、簿記の知識がない場合は簿記検定3級を取得することをおススメします。
簿記検定についてはコチラの記事をご参考ください。
少額減価償却資産
取得価額が10万円を超える資産を購入した場合はその金額を一度に経費にできるわけではありません。
その資産の耐用年数に応じた期間に費用化されます。
しかし、青色申告をしている事業者にあっては取得価額が30万円未満の資産について年間300万円に達するまでは経費に算入できる「少額減価償却資産」という制度があります。
早期に費用化したい場合などはこの制度を活用することをおススメします。
貸倒引当金
青色申告をしている個人事業主は売掛金や未収入金、貸付金等に対して将来の貸倒れ(倒産などにより売掛金などが回収できなくなること)の損失に備え一定の額を費用に算入することができます。
個別評価による貸倒引当金
売掛金や貸付金等の債務者が次に該当する場合はそれぞれ一定額を費用にすることができます。
- 更生計画認可の決定、再生計画認可の決定、特別清算に係る協定の認可の決定等
売掛金等のうち、その事由が発生した年の翌年から5年以内に弁済されることとなっている金額以外の金額 - 債務超過の状態が相当期間継続しその好転の見通しが無いこと、災害、経済事情の急変等により多大な損害が生じていることにより、売掛金等の一部について取立て等の見込みがないと認められるとき
売掛金等のうち取立て等の見込みがないと認められる金額 - 更生手続開始の申立て、再生手続開始の申立て、破産手続開始の申立て、特別清算開始の申立て、手形交換所によると取引停止処分
売掛金等の金額から実質的に債権と認められない金額等を控除した金額の100分の50に相当する金額
個別評価による引当金は経費に算入できますが、そもそも貸倒れの可能性が高いということ自体が好ましくないので積極的に使いたいものではありません。
一括評価による貸倒引当金
売掛金や未収入金、貸付金等の金銭債権の5.5%を貸倒引当金繰入という勘定科目で必要経費に算入することができます。
翌年に貸倒れが生じなかった場合は貸倒引当金に計上した金額を貸倒引当金戻入益として収益計上しなければいけないという点に注意が必要です。
2年通算で考えると損益が発生していないことになるので、貸倒引当金を設定したからといってより多く費用を計上できるわけではないことにご留意ください。
青色専従者給与
個人事業主の家族へ給与を支払っても原則的には経費に算入することができません。
しかし青色専従者給与であれば家族への給与を経費に算入することができます。
青色専従者給与として認められるには青色専従者給与に関する届出書を提出が求められます。届け出に記載した方法により支払われ、記載されている金額の範囲内で支払わなければいけないことに注意しましょう。なお、記載されている金額の範囲内であっても過大と認められる部分については経費として認められません。
専従という言葉があるように、その年を通じて6か月を超える期間に青色申告者の事業に専ら従事する必要があります。他に定職がある状況で少しだけ手伝うような場合は専従とはなりませんので給与を支払っても経費にはなりません。
年齢についてはその年の12月31日時点で15歳以上でなければいけないという要件があります。
青色申告の届け出
青色申告をするためには所得税の青色申告承認申請書を提出しなければいけません。
注意しなければいけないのはその提出時期です。青色申告をしようとする年の3月15日まで(その年の1月16日以後あらたに事業を開始した場合はその事業を開始した日から2月以内)です。
例えば令和4年の申告(申告期限は令和5年3月15日)から青色申告をしようとする場合は令和4年3月15日までに申請書を提出しなければいけません。
よくある勘違いは令和4年の申告は令和5年3月15日までなので青色承認申請書も確定申告と同時に提出すればよいというものです。あらかじめ提出しなければ適用を受けることができません。
事業所得以外の所得がある場合は損益通算
フリーランスの方の中には事業所得以外の所得がある方もいるかもしれません。
事業所得で損失が生じた場合において、その損失を他の所得金額から控除することができます。
この仕組みを損益通算といいます。この損益通算を受けるためには確定申告をする必要があります。
事業所得に赤字がある場合は次の順番で損益通算を行います。
- 利子所得、配当所得、不動産所得、給与所得、雑所得と事業所得の損失を通算
- ➊で通算しきれない損失があるときは短期譲渡所得、長期譲渡所得、一時所得の順番で通算
- ❷で控除しきれない損失があるときは山林所得、退職所得の順番で通算
帳簿作成で間違えやすい家事按分
確定申告で重要なことはモレや間違いがなく申告を行うということです。
会計帳簿の作成は苦手意識がある方も多いように感じます。正確な会計帳簿の作成はある程度の知識も必要です。
特に事業とプライベートに共通した支出についてはどのようにすればよいのかわからないという方も少なくないのではないでしょうか?
家事按分をするためには「業務遂行上必要」であり、「必要部分を合理的に按分」する必要があります。
詳しくはコチラにまとめていますのでよければご覧ください。
まとめ
フリーランスにとって確定申告がなぜ必要なのかについて解説しました。
- 所得証明
- 損失の繰り越し
- 損益通算
上記のように様々な理由があります。
覚えておいていただきたいことはフリーランスは赤字であっても黒字であっても確定申告が必要であるということです。
確定申告をスムーズに行うためには計画的に準備を進めることをおススメします。
毎月帳簿をつけておくだけでも、あわただしく会計処理を行うことも無くなるでしょうし、損益の見通しが立てば税負担の把握も容易になります。
確定申告に苦手意識をもっている方も多いかと思いますがこの記事が少しでも役に立てば喜ばしいです。