この記事の執筆者
税理士 青木征爾
札幌市を中心に活動
新規創業支援や中小企業の経営支援、相続業務を得意とする
こんにちは。札幌の税理士の青木です。
令和5年10月からインボイス制度の導入が始まります。
消費税の取り扱いが変わるものも多くあり、どのようにしたらよいのか疑問を持つケースもあるかもしれません。
今回はインボイス制度導入後の前払費用、短期前払費用についての取り扱いについて解説します。
前払費用って何?
前払費用とは契約によって継続したサービスを受ける場合に、料金は支払ったけれどまだサービスを受けていないものをいいます。
例えば翌月分の家賃を支払う場合や保険料を年払いするようなケースやサブスクリプションサービスを年払いするケースなどが該当します。
消費税の取り扱い
前払費用として料金を支払った時点ではまだサービスを受けていません。
そのため消費税の取り扱いは課税対象外となります。
サービスを受けた時点で仕入税額控除ができます。
例えば7月に8月分の家賃を支払った場合は、7月ではなく8月に仕入税額控除を行います。
法人税、所得税の取り扱い
前払費用は料金を支払った時点では資産計上を行い、サービスを受けた時点で経費に計上します。この取り扱いは法人でも所得税(個人事業主)でも同じです。
事務所の地代家賃8万8千円を支払った場合の仕訳を確認しましょう。
支出時の仕訳
前払費用 88,000 /現金預金 88,000
サービスを受けた時点
地代家賃 80,000 /前払費用 88,000
仮払消費税 8,000 /
短期前払費用には要件が必要
料金を支払ったけれどサービスをまだ受けていないものについては前払費用として資産計上しなければいけないと先ほど説明しました。
しかし、前払費用であっても短期前払費用に該当すれば料金の支払い時に費用処理することができます。
どのような取引が短期前払費用に該当するのか確認しましょう。
短期前払費用の要件
- 契約に基づくもので等質・等量のもの
- 支払日から1年以内に受けるサービスで時の経過に応じ費用化されるもの
- 収益と対応していない
- 継続的に支払い時に費用処理
- 重要性の原則の範囲内であること
- 未払ではないもの
契約に基づき等質・等量である必要があります。例えば契約では月払いなのに自発的に1年分支払ったとしても該当しません。また、税理士報酬のように支払額は毎月同じであっても内容が同じでないものも短期前払費用になりません。
支払日から1年以内にサービスを受けるものでなければ短期前払費用にはなりません。たとえば3月末に4月から翌年3月末までの1年分の家賃を支払う場合は短期前払費用に該当しますが、2月に4月から翌年3月までの家賃を支払う場合は短期前払費用となりません。
1年分の前払いだから短期前払費用になると勘違いしないようにしましょう。支払日とサービスの期間をしっかり確認して正しい処理をすることが重要です。
収益と対応関係にあるものも短期前払費用にはなりません。例えば不動産を転貸している場合の支払い家賃などは収益と対応関係にあるといえます。
今期は利益が出たから短期前払費用として処理するけど、翌期は前払費用にして資産計上する。このような処理は認められません。毎期同じ処理をしましょう。
重要性の原則とは金額の重要性と質的重要性などを考慮しなければいけません。重要性が高いものは短期前払費用には認められません。
短期前払費用は支払が完了しているものにしか適用できません。
具体例
短期前払費用の一例をご紹介します。これ以外でも要件を満たすものは短期前払費用として費用処理することができます。
- 家賃
- 駐車場代
- リース料
- 保険料
消費税の取り扱い
短期前払費用は支払時に仕入税額控除をすることができます。インボイス導入前もインボイス導入後も取り扱いは変わりません。
消費税法基本通達11-3-8に定めがあり支出した日の属する事業年度において課税仕入れを行ったものとして取り扱います。
サービスを受けていなくても仕入税額控除ができる特例となっています。
法人税、所得税の取り扱い
法人税、所得税においてはどちらも支出時に費用処理することできます。
事務所の地代家賃8万8千円円を支払った場合の仕訳を確認しましょう。
地代家賃 88,000/現金預金 88,000
短期前払費用は節税になるのか?
短期前払費用を使って節税という話はたまに耳にします。
しかし、短期前払費用を使っても大きな節税効果は見込めません。
なぜなら短期前払費用を適用してもしなくても、複数年度で考えると計上される経費の額は一緒だからです。
適用初年度は経費が多く算入され、節税効果があるように見えますがそのサービスを受ける最終事業年度はその分経費が少なく算入されます。
【参考】前払費用と前払金の違いとは
前払費用と前払金は混同しやすいかもしれません。どちらも料金を先払いしているという点では同じです。
前払費用を契約に基づく継続的なサービス提供に係るものであることに対し、前払金は仕入やサービスの先払いであるという違いがあります。
継続的なものであるかどうかという点が大きく異なります。